高梨初歌は呪われている

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 友達やフォロワーの数人にこの話をしたところ、多くの人が信じなかったか、ぼんやりと話をはぐらかした。当然の反応だろうと、初歌も思った。  フォロワーの中には、初歌は疲れているから一度実家に帰るなどしたほうがいいと、自身の経験なども交え、親身になってアドバイスをしてくれた人もいた。  どうしても実家には帰りたくないと初歌がこぼすと、友人の一人は、それなら一度精神科医へ行けと言った。  心霊現象が本物かどうかはわからないが、初歌が鬱のようになっているのは間違いないので、医者の助けが必要だと言うのである。  しかし、いくら保険が使えるといっても、病院へ行くには金がかかる。  初歌は数か月前から、ほとんど無収入である。貯金もない。  それに、精神科へ行って医者に自分の悩みを話すことを考えると、気が重くなった。  病院の先生に幽霊を見たなんて話したら、どんな顔をされるだろうか。  それでも友達に勧められて、とうとう近所の精神科医へ行くことを決めた。  家から十五分ほど歩いたところに、病院はあった。  不審者さながらに病院の前を二度通り過ぎたが、結局中に入らずに、引き返してしまった。  とぼとぼと住宅街の通りを歩きながら、初歌は途方に暮れた。  お金がない。絵も描けない。  初歌は子供の頃から絵を描くのが好きで、高校時代は漫画部に入っていた。  漫画部には初歌よりずっと上手い生徒もいたが、初歌の田舎から絵を描くために上京したのは、初歌だけだった。 「漫画家なんて、ほんの一握りの人しかなれない。お前には無理だからやめておけ」  そう、教師も親も口を揃えた。  ただ、従兄の俊也(しゅんや)だけが、初歌の夢を応援してくれた。 『(うい)はすごいなあ。お前は特別だよ。ういが漫画家になって本が出たら、地元で一番の有名人だなあ』  踏ん張り続けた四年間、色々な人に助けられたが、俊也のその言葉はずっと初歌の支えになっていた。  しかし今では、その俊也の言葉までもが、呪いのように思えてくる。  自分には、そんな才能はなかった。  努力なんて何の意味もない。  金も時間も感情も体力も、全部無駄にして馬鹿みたいだ。  お前には何もできない。  自分で思ったから、人にそう言われた時も心に刺さるようになったのか。  それとも人々の口から繰り返し聞くうち、そう信じるようになったのか。  どちらだろうと、結局同じことだ。
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