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十馬は眉を上げた。
「ケンカしちゃえばいいんじゃないですか。
最悪ネカフェ難民でもいいからやっぱり東京に出たいって思ったら、また出ればいいわけだし」
「うーん……でもそれだと、漫画は描けないんだよね……」
「ああ、初歌さんの夢って、漫画家でしたっけ。
そしたら別に、実家出なくてもいいじゃないですか。
実家で漫画描いてバイトして、描けたら応募とかすればいいんじゃないですか?」
「うん、そうなんだけど……」
漫画家になる夢に反対している両親の元にいて漫画が描けるだろうかとか、自分は東京にいたほうがよく描けるとか、色々な言葉が頭の中を回った。
ふと、十馬が言う。
「人生って意地悪ですよね。
欲しいカードを貰えるとは限らないし、持ち手がゼロとかマイナスで生きていかなきゃいけない場合もあるし。
でも結局そこからどうしたか選んだのは自分だし、残るのは結果ですよね。
まともな手札がないってぼやきながら闘うのも、ゲームに参加せず息を引き取るのも、またひとつの人生だとは思います」
それを聞き、初歌はむっとした。
「私、今まで頑張ってきたと思う。でも、結果が出なかった。
これって、私のせいなのかな。
疲れて諦めたら、それでも私が悪いのかな」
気が付いたら、腹の底から、そんな言葉が出ていた。
十馬は首を傾げ、言った。
「そもそも頑張る意味って、何でしょうか。
諦めるのが悪いかなんてわからないし、何がどうなったら結果が出たって言えるのかも人によって違いますよね。
何をどこまでしたら努力したことになるのかも、何かを得るのに努力すべきかもわからないし、一見成功してるように見えて実は不幸だって人もいるだろうし。
道を選ぶのは自分だし、その結果を見て後悔するか何かに怒るかどうかも、考え方次第ですよね」
初歌を見つめ返す茶色い瞳は真摯だが、同時にどこか空虚だった。
きっと十馬は意地悪を言うつもりはなく、単に初歌の問いに答えようとしているだけだ。
それに、十馬は自分自身に言い聞かせているようにも、初歌には聞こえた。
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