人生って意地悪

3/3
前へ
/37ページ
次へ
 しかし、初歌はどうにも腹の底でモヤモヤと渦巻くものを感じていた。 「……じゃあ、十馬さんは、後悔することないの。  欲しいものってないの。  頑張ったのに認められなかったり、馬鹿にされたら悲しくないの。  それとも、そんなふうに頑張ったこともないか、頑張るのは馬鹿みたいだって思うの?」  すると、十馬の瞳が初歌の方を向いた。 「そんなことないですよ。  わたしも、何とかしたくて色々考えたし、やってみたんです。  でもね、わたしの場合も、どうしてもやっぱり上手くいかなくて、結局どう諦めるかしかないのかなって思いました。  どうせ後悔するなら、何かして死んでも何もしないで死んでも同じかもしれないって。  どうしたらいいんだろうって、自分は何をしたいんだろうって、わからなくなったりもして。  でも、わたしはじっとしてるのが苦手だから、結局後悔したとしても全部試して後悔したほうがいいかなって、最近は思うようになったんです。  だからわたしは初歌さんみたいな人、羨ましいし、好きです。  失敗してもいいから、一緒に頑張りたいな」  そう言って十馬はふわりと微笑むと、スマホを握ったままだった初歌の手に、自分の手を重ねた。  ドキドキしたりすることはなく、ただ、ひやりと冷たい十馬の手を、温かいと感じた。 「……うん」  十馬は確かめるように、柔らかく初歌の手を握った。 「とりあえず、次どうするか、明日暁士さんが来るまでは考えなくていいんですよね。  あの人たちは、底抜けにお人好しですから。  そこはラッキーだと思って甘えさせてもらって、おじいさんちでのんびりしましょう?」  自分の中のモヤモヤが少し薄れているように、初歌は感じた。絡まっていた何かが、いくらか解けている。  しかし頭の中はまだ色々なことでいっぱいで、次のことを考えられるほどの余裕はなさそうだった。  まだどこかまどろむような頭の隅で、風の温度とか、遠い海の色とか、そんなものを妙に鮮明に感じた。 *
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加