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しかし、初歌はどうにも腹の底でモヤモヤと渦巻くものを感じていた。
「……じゃあ、十馬さんは、後悔することないの。
欲しいものってないの。
頑張ったのに認められなかったり、馬鹿にされたら悲しくないの。
それとも、そんなふうに頑張ったこともないか、頑張るのは馬鹿みたいだって思うの?」
すると、十馬の瞳が初歌の方を向いた。
「そんなことないですよ。
わたしも、何とかしたくて色々考えたし、やってみたんです。
でもね、わたしの場合も、どうしてもやっぱり上手くいかなくて、結局どう諦めるかしかないのかなって思いました。
どうせ後悔するなら、何かして死んでも何もしないで死んでも同じかもしれないって。
どうしたらいいんだろうって、自分は何をしたいんだろうって、わからなくなったりもして。
でも、わたしはじっとしてるのが苦手だから、結局後悔したとしても全部試して後悔したほうがいいかなって、最近は思うようになったんです。
だからわたしは初歌さんみたいな人、羨ましいし、好きです。
失敗してもいいから、一緒に頑張りたいな」
そう言って十馬はふわりと微笑むと、スマホを握ったままだった初歌の手に、自分の手を重ねた。
ドキドキしたりすることはなく、ただ、ひやりと冷たい十馬の手を、温かいと感じた。
「……うん」
十馬は確かめるように、柔らかく初歌の手を握った。
「とりあえず、次どうするか、明日暁士さんが来るまでは考えなくていいんですよね。
あの人たちは、底抜けにお人好しですから。
そこはラッキーだと思って甘えさせてもらって、おじいさんちでのんびりしましょう?」
自分の中のモヤモヤが少し薄れているように、初歌は感じた。絡まっていた何かが、いくらか解けている。
しかし頭の中はまだ色々なことでいっぱいで、次のことを考えられるほどの余裕はなさそうだった。
まだどこかまどろむような頭の隅で、風の温度とか、遠い海の色とか、そんなものを妙に鮮明に感じた。
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