高梨初歌は呪われている

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 気付くと、初歌は踏切の前に立っていた。  遮断機が下りてきたので、線路の手前で立ち止まったのだった。  ふと思い出す。  ここに引っ越してきたばかりの頃、この踏切に飛び込んだ人を見た。  それは中年の女性で、その人は下りた遮断機をさっとくぐると、電車が来るはずの線路の真ん中に仁王立ちした。  踏切待ちをしていた人や、近くを歩いていた人たちが騒然となった。  近くに立っていた大学生らしい男の子が踏切の警報スイッチを押し、年配の男女が二人踏切に飛び込んで、その女性を線路から引っ張り出した。  あの時、電車が時々止まるのはこういうことがあるためなのかと、驚きながらもぼんやり思った。  今は、あの女の人の苦しそうだけれどどこか虚ろな表情を、初歌は思い出していた。  あの人も、何かに絶望したり、疲れてしまったんだろうか。  たしかに、遮断機をくぐってこの中に飛び込むのは、あまりにも簡単だ。  何も考えたくない。  何も考えられない。  先のことも今のこともわからない。  生きていてもここで終わっても、きっと何も変わらない。  その時、男性の声がした。 「うい! 待てよ、うい!」  名前を呼ばれて振り返ると、すぐ後ろに、若い男の子が立っていた。  初歌より少し背が高いくらいの、ひょろっとした、高校生くらいの男の子だった。  カジュアルな服を着、黒い癖毛が伸びていて、丸い茶色の瞳は鹿か何かの動物のようだと初歌は思った。  しかし初歌は、こんな男の子は見たことがない。  なぜ自分の名前を知っているんだろうと戸惑っていると、男の子の背後から、背の高い男性が近付いてきた。 「おい、うい。置いてったら俺泣くぞって言ったよな。ういは俺が泣いてもいいんだな」  男性は、初歌と同じくらいの年に見える。  肩幅が広く、シンプルな服装で、刈り込んだ髪と日焼けした顔はスポーツか何かしていそうだった。  どうやらさっき呼んだ声は、この男性のもののようだ。  しかし初歌は、この男性にも見覚えはない。  すると、男の子が初歌を指さし、男性を振り返って、言った。 「暁士(あかし)、この人、呪われてるよ」 *
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