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また会えるのを
実家へ移る日、東京から暁士が初歌を迎えに来た。
暁士は高速バスの停留所近くまで見送りに来てくれた。
「進捗あったら連絡するんで、初歌さんも何かあったら、いつでも言ってくださいね」
初歌が預けたアパートの鍵を見せながら、暁士は言った。
初歌は頷く。
「はい。引越しの日取り決めたら、またすぐ戻ってくると思うので」
「いやいや、その前に、どこに引越すのか決めなきゃですよね」
暁士に笑いかけられ、焦らなくていいと言われているのだと気付いた。
「暁士さん、本当にありがとうございます」
「いや、これから大変だろうけど、頑張りましょう。
あと俺も、まだ半人前で色々心配かけちまったかもしれないんで、すみません」
初歌は首を振った。
「そんな。暁士さんと会えたのは、私にとって、地獄に仏って感じでした」
すると、暁士は口を引き結んで首の裏を掻きつつ、うつむいた。照れ隠しらしかった。
「いや、そんなん言われるとすげぇ嬉しいですけど。
じゃ、褒め言葉に恥じないように、部屋のお祓い頑張ります」
初歌は微笑んだ。
「ほんとは私、和尚さんと暁士さんがアパートをお祓いしてるところも見てみたかったんです。
だって、この間は私が寝てる間に全部終わっちゃってて、それはすごくありがたかったんですけど、なんていうかこれがもし漫画だったら、ヤマもオチもないまま終了じゃないですか」
「何すかそれ、初歌さん。
いやでも、ちょっとは元気になってるみたいで、よかった」
暁士が、歯を見せて笑う。
その時、横から、スーツを着た男が近付いてきた。
通行人だろうと思って見送ろうとしたが、その男が二人の前で立ち止まったので、初歌は男を振り返った。
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