暁士と憂

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 十分後、初歌は謎の男性と少年と、ファミレスのボックス席に座っていた。  踏切前で立ち話も何なのでどこか入りましょうと、男性が言ったからである。  男性は暁士と名乗り、少年の名前は(うい)というらしかった。  踏切の手前で暁士が呼んだのは、初歌ではなく、憂のことだったのだ。 「なんで私の名前を知ってるんですか」  席に着くなり初歌が投げかけた質問に、暁士は難しそうな顔をしつつ、答えた。 「ええと……それ、わかっちゃったのは俺じゃなく憂なんですけど……直感でわかるんだって言ったら、信じます?」  初歌は眉を寄せた。  会話が早くも袋小路に入り、暁士は気まずそうに笑いつつ言い直した。 「憂、すごい鋭いんですよ。人の気配や体調とかにすごい敏感なんです。  で、初歌さんの体調がすげぇ悪そうだったんで気になったっぽいですね。  今も顔、真っ青ですし」  暁士の言葉は初歌の疑問を解き明かしていない。  しかし初歌は、もう一つの疑問を思い出した。 「あの、呪われてるって、どういうことですか」  暁士は、ますます気まずそうな顔をした。 「えっと、あーと」 「教えてください」  観念したように、暁士は切り出した。 「えーと……じゃあ、言いますね。  えー、初歌さんに、ちょっとヤバめのやつがですね、憑いてるっぽいんですよ。  憑いてるってまあ、オバケってか、悪霊って言うか。  で、そいつの影響で、初歌さん自身の調子がすごく悪そうって。  憂が言った呪いって、そういうことです」  やはり初歌が眉を顰めると、暁士は苦笑いしながら付け足した。 「あ、えーとですね。はははは。  俺実は、退魔師ってやつなんです。  えーと、キリスト教圏で言うエクソシストみたいなやつです。  だからちょっと変なものが見えたり聞こえたりするんすよ。  いやぁ、胡散臭いっすよねぇ」  あはははと笑いつつ首を掻く暁士は、ひたすら気まずそうである。  確かに、以前なら初歌も何かの冗談だと思っただろうが、今はそう思い切れなかった。  するとそこで、ウェイターが注文を取りに来た。  初歌はコーヒーを注文し、暁士はコーヒーと、憂が希望したパンケーキを頼んだ。  店員が去ってから、初歌はもう一度尋ねた。 「憂くんが私の名前をわかったのは、退魔師だからですか」  メニューブックをテーブルの端へ戻していた暁士は、初歌を振り返った。 「あー、いえ。  憂は退魔師とかじゃないんですけど、さっきお話したみたいに、めちゃくちゃ鋭いってか、色んなものが見えるし聞こえるんです。  なんで、初歌さんの名前もわかっちゃったんですよ」  そんなことが、実際にあるのだろうか。  もしかしてこの二人は自分のストーカーか、でなければ詐欺師だろうかとも考えたが、初歌はほとんど一文無しだし、そんなものに遭う覚えがない。
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