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初歌が返事もせずに呆然としていたからだろう、暁士が頭の位置を低くして、初歌の顔色を窺うように言った。
「あのー……、初歌さん、多分、自覚あるくらいなんで、きっと色々困ってるんですよね?
あの、俺らでよかったら、ちょっと話聞きますよ。
このあと三十分くらいなら時間あるんで。
えっと、その、一応……大丈夫ですよ。
俺ら、変な壺とかブレスレットとか、売りつけたりしないんで。
俺らのこと怖くなったら、ここ出てけばいいですし」
そう言って控えめに笑った暁士は、エクソシストというよりは宅配便の配達員か何かのような雰囲気で、心霊どころか占いなどにも興味がなさそうなタイプに見える。
妙な連中ではある。胡散臭くないわけはない。
しかし、初歌は疲れ切っていた。
どうしたらいいかわからなかったし、それに、もう失うものはないと思った。
それなので、この一か月くらいの間に起きたことを、ぶちまけて喋った。
例の家の話が中心ではあったが、それ以外に仕事や絵の話もした。
全ての問題は、少しずつ繋がっていたからである。
話しているうちに涙が出てきて、最後の方には、初歌はぼろぼろと涙を流していた。
暁士が、テーブルの端に置かれていたペーパーナプキンを差し出した。
途中でコーヒーとパンケーキが届いたが、誰も手をつけなかった。
話し終えても、初歌の動悸はしばらく収まらなかった。
心配そうな顔をした憂が冷めきったパンケーキを勧めてくれたが、上手く喋れなかった初歌の代わりに、暁士がそれを断った。
暁士は憂にパンケーキを食べるように言うと、初歌の方へ向き直った。
「初歌さん、とりあえず言うと、まあ問題は色々あるかもしれませんけど、その家には帰らないほうがよさそうですよね」
思わず暁士を見つめた初歌の視線を受けて、暁士は慌てて付け足した。
「いや、もちろん変なこと勧めるわけじゃないですよ。
そうじゃなく、どっか泊めてくれる友達とかいませんか?
じゃなきゃホテルとか。
多分普通の人が聞いても、その家ちょっとやばいと思うんで、できればもうそこに行かないほうがいいと思うんですけど」
初歌は嗚咽を抑えつつ、答える。
「仲のいい友達は、他県とか、離れたところにいたりして……
近くの友達は、そこまで親しくなくて、迷惑かけられないです」
う~んと暁士は腕を組んだ。
「まあ、そうですよね。
……あ、そうだ、じゃあこれどうですか。
今から俺の写真撮って、SNSとかラインとかで適当に、今から道端で会った自称退魔師の家に泊まってきます~とか流すんすよ。
絶対誰か心配して、やめとけじゃあうち泊まりに来いって言ってくれますから」
それを聞いて、なぜか初歌は一瞬名案だと思ったものの、すぐに却下した。
結局友達に迷惑をかけることになってしまうし、そんな言動は冗談にしても普段の初歌のキャラと違いすぎている。
今度こそ本気で頭がやられたと思われるだろうし、万が一誰か友達が、初歌の家族に通報でもしたら大変なことになる。
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