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退魔師のマンションで
行くといっても、そのあと直接暁士のマンションへ移動したわけではない。
外泊用の荷物が必要なので、初歌のアパートへ寄り、大慌てで荷造りした。
初歌が荷造りしている間、憂はアパートの前の通りで待ち、暁士は玄関ドアを開けたままそこで待機していた。
荷造りが終わると、小型のスーツケースを引きながら初歌は二人とバスに乗り、十五分程度で暁士のマンションに移動した。
ところでファミレスを出る前に、暁士は運転免許証とそこに書かれている住所を初歌に見せてきた。
「俺の写真撮って友達とか家族に送らなくて大丈夫ですか。
むしろ後で何かあったりした時怪しまれたくないんで、そうしてほしいんですけど」
そう暁士は言ったが、初歌はそうしないまま、暁士のマンションへ行った。
暁士のマンションは、確かに男臭いものの、本人がバスの中で前置きしていたほど汚くはなかった。
ロフト付き八畳のワンルームの半分は3Pソファとテレビが占めており、小さなキッチンのそばには中型の冷蔵庫と、暁士の体格を思うと小人サイズの座卓と座布団があった。
暁士はロフトの梯子に掛かっている洗濯物を片付けつつ、スーツケースを適当に置いて好きな場所に座るよう初歌に勧めた。
憂が座卓の前に座ったので、初歌もその向かいに座った。
暁士は冷蔵庫から、3リットルの巨大タッパーとウーロン茶のペットボトルを取り出してきた。
タッパーの中身は焼うどんに見える。
「憂、皿とコップと箸出して。お前と初歌さんのな」
りょーかい、と何かの真似のように答えた憂は、小さなキッチンから二人分の食器を取り出して、座卓の上に並べた。
暁士はタッパーを電子レンジに入れてスイッチを押すと、初歌に向かって、バスの中でした説明を繰り返した。
「じゃ、俺今から仕事行きますけど、初歌さんは気にしないで寝ててくださいね。
合鍵は憂が持ってるんで、コンビニとか行く場合は絶対鍵かけんのお願いします。
それからくどいんですけど、もしインターフォン鳴って誰か来ても、絶対出ないでください。
生きてるやつでも死んでるやつでも、俺の留守中はろくなの来ないと思うんで、見に行ったりとか確認もしないで、完全に無視でお願いします」
なんだそれは、怖すぎないか。一体何が来るというのだろう。
しかし暁士が急いでいる様子だったので、初歌は細かいことは尋ねず、出かけていく暁士を見送った。
「じゃあ、よろしくお願いしますね~」
そう言って、暁士は部屋を出て行った。
バタンと扉が閉じ、玄関の向こうで錠を下ろす音がする。
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