ありがとう、さようなら、そして未来へ

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今日は卒業式。 私は、今日、大学を卒業する。 4月からは社会人になる。就職先も決まっている。 あと2週間もしたら、私はスーツを身にまとい、満員電車に乗るサラリーマンになる。 実感はない。 それでも、その日は確実にやってくる。 別れの淋しさだけでなく、怖いのか、不安なのか、未来への期待なのか、高校の卒業式とは違う感情が湧き上がっていた。 でも、今だけは。 卒業式のその時だけは。 友だちや先生との思い出に浸り、別れと旅立ちをしっかり目に心に焼き付けよう。 華やかな卒業式。 吹奏楽部の演奏。 祝辞、送辞、答辞。 動画を撮る者、涙を流す者、友達と最後のじゃれあいをする者。 学生最後の日。 それぞれがそれぞれの思いで、卒業式を噛み締める。 卒業式が終わり、友達との撮影会。 みんなが卒業に興奮し、祝福しあい、幸せな空気が流れる。 お世話になった先生にお礼を言う。 苦しい思いをした分だけ、先生と関わりも深く、別れは辛い。先生と共に泣き笑いになる。 みんな、名残惜しく、なかなかその場から立ち去る事ができない。 それでも、一人、二人と徐々に人が減っていく。 そして、私も、その波に乗り、帰宅の途につく。 「じゃあね!またね!」 いつもと同じセリフ。 でも、今日の"またね"は明日ではない。 今度はいつ会えるのだろう。 中には、明日、会う子もいる。 でも、一生会わない子もいるかもしれない。 それが卒業だ。 後ろ向きに歩きながら、みんなに手を振る。 みんなの向こうに、毎日通った学校、教室、学食、図書館、明るい廊下が見えた気がした。 そこには、キラキラ輝く自分たちがいた。 まだつい最近まで通っていたのに、ずいぶん遠くに感じる。 そして、前を向いて歩き出す。 今までとは違う明日が待っている。 視界が歪む。泣いてない。 泣いてなんかいない。 だって、私の未来は明るいのだから。 背後では、まだその場に残っている卒業生たちの声がしていた。
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