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後に友人は語る、「あんな笑顔最初で最後だ」と。
はじめまして皆さん。私は今この上ない喜びで、天にも昇る気持ちです!
肩に大型リュックを背負い、左手でガラガラと旅行鞄を引きずる私はまさしく、THE家出少女スタイル。
それもそのはず。つい数十分前に「出ていけ!!」と親から追い出されたので。荷物は40秒とはいかずとも20分で蹴りをつけたのだから御の字でしょう。
兎にも角にも、思わずスキップして3度見されるわ同級生に遂に実行かと拍手で送り出され周囲に5度見されるわ、これ餞別だとうまい棒を30本もらうわ。
あら良い出だしね。と思わず頷く。
残念、ここにツッコミ担当はいない。
事の経緯? 簡単よ、自分の思い通りに動かない娘にキレたの。「アンタにはもう失望した! 二度と期待なんかしないから!」と怒り狂うあの女、とても愉快だったわ、動画を撮っておけばよかったかしら? 勿体ないことをしたわね。
未成年だから見つかったら連れ戻されてしまう。それはいけないわ、折角あの窮屈な家から解放されて、これから自由に生きていけるチャンスを逃すものですか!
あの親はいい加減子離れするべきよ、自分の娘のせいで血管が切れてなんてしょうもない死に方は避けるべきだわ。
親も子も、互いが互いを認識したらそれが親子の始まりになる。死ぬまで終わりがないなんて地獄じゃない? しかも、超高齢社会なんて呼ばれるほど平均年齢が高いのよ。
ああっ、やってらんないわ!!
だから、これを機にさようなら。親も子も、互いがいなければただの人であれる。
あの人も、私も、親と子の役割を卒業しましょう。そして幸せになりましょう!
ルンルンと適当に歌いながら、これから何をしようかと考える。暫く使っていなかったから表情筋が酷く痛む。けれどその痛覚も解放された証なのだと思えば、憎むことなどできない。
「取り敢えず、卒業祝いに美味しいものが食べたいな! ゆりちゃんが言ってたお店、ここからどう行くんだっけ?」
スマホで呑気に地図を検索する少女は知らない。長期出張から帰宅した父親が母親と娘との間に起こった一連の出来事を聞き出し、激怒の後に方々に行方を尋ねることを。
GPS機能によりあっさりと見つかり、目的の店のど真ん前で連れ戻され、卒業祝いのごちそうを食べ損ねることを。
因みに、少女は父親の顔を覚えていなかったので「誘拐される! 誰か助けて!!」と叫び散らしまた一騒動起こすのだが、それはまぁ、別のお話ということで。
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