25人が本棚に入れています
本棚に追加
「ご両親を呼んで下さい」
診察室の外で待っているであろう患者の両親に向け、看護師が入室を促すためにドアを開けて声をかけている。
心配そうな表情を浮かべながら、若い夫婦が入ってきた。身なりを見る限り、良くて中流階級ってとこか。
「お待たせしました。春菜さんの検査の結果がでました。1型糖尿病による症状は安定していますが、すでに膵臓の内分泌腺であるランゲルハンス島から、インスリンがほとんど分泌されていない状態ですので、インスリンの投与は継続していかないといけません。今後、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症の合併が危惧されます。ご存知かもしれませんが、完治を目指すにはまだ血管がしっかりとしているうちに、膵臓の移植を受けるしかありません」
「はい、移植しかないことは知っています。だから頑張って、臓器移植保険に娘を加入させました。春菜に膵臓移植をうけさせてあげてください。どうか、よろしくお願いします」
そう言って、父親が僕に赤い保険証を提示してきた。
「分かりました。早速、コーディネーターに連絡をしておきます。移植できる臓器が見つかったら、事務の方から連絡させます。おおよそ一ヶ月くらいの猶予を見ておいて下さい。その間に臓器移植保険を解約してしまうと、どんな理由があれ移植は受けられなくなりますのでご注意下さい」
説明を聞き終えた患者の両親は、よろしくお願い致しますと、何度も頭を下げて診察室から出ていった。
最初のコメントを投稿しよう!