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「今のご家族、娘さんのためにかなり節約をされているようですね。あの若さで赤い保険証だなんて。てっきり、白い保険証あたりだと思っていました」
看護師が感慨深げに呟く。赤い保険証を手に入れるには、毎月、かなり高額の保険料を支払い続ける必要がある。実際に臓器移植を受けるには、最低一年間の保険料の払込実績が必要になるから、少なくとも一年前には移植に向けた準備を始めていたのだろう。
臓器移植保険は、支払っている保険料に応じて六段階のクラス分けがなされている。そして、それぞれのクラスごとに保険証の色が異なる。最上級から紫、青、赤、黄、白、黒と色分けされているのだ。これは、実力さえあれば家柄など関係なく出世できるとして、聖徳太子により制定された冠位十二階になぞらえて色分けされている。お金さえ払えば、貧乏人でも最上級の移植が受けられるというところが似ているかららしい。
一昔前の日本は、臓器移植に関しては世界の中でも遅れをとっていた。しかし、どんな臓器でも移植後にアレルギー反応が出ない手術法を僕が確立したことで、日本は一躍、移植手術の先進国に生まれ変わったのだ。それとともに、正しく臓器移植を行う目的で、臓器移植管理法が制定された。世界中に招かれ、現地で手術を行う僕の手元には、想像もつかないような大金が舞い込むようになってきた。そんな状況になっても、僕は、多くの困っている人間を救えることへの悦びの方で胸がいっぱいだった。
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