25人が本棚に入れています
本棚に追加
◆◇◆◇
「ご両親を呼んでください」
診察室の外で待っているであろう患者の両親に向けて、看護師が入室を促すためにドアを開けて声をかけている。
心配そうな表情を浮かべながら、中年の夫婦が入ってきた。二人ともに、ブランドものの洋服を上手に着こなしている。
「お待たせしました。菜月さんの状態ですが、左右の肺ともに異常は認められませんでした。それでも、行いますか?」
僕は、ご両親に状態を伝え、ご両親の反応を待った。
「今は何の異常もないかもしれませんが、一度でも喫煙した肺であることは間違いありません。それが、この子の将来にどんな影響を及ぼすかと想像するだけで恐ろしいんです。先生、娘の両肺の移植をお願いします」
ご両親は僕に頭を下げながら、紫の保険証を差し出してきた。
「分かりました。では、早速、コーディネーターに連絡をします。二週間程度で準備できると思います。オプションの希望はありますか?」
「そうですね、娘には管楽器をやらせようと思っているので、肺活量が多いといいですね」
「承知しました。では、準備が整いましたら、事務の方から連絡をさせて頂きます」
最初のコメントを投稿しよう!