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「さっきの突風に、連れてこられたんだろう。
お前宛てだ」
サルクイが言う。
とある理由で、今は渡りをせず里に居着いている、今年17になる青年だ。
「私宛て?」
ヒワの天幕がぺしゃんと潰され、その前にひとりの少年が転がされていた。
「大きな音がして来てみたら、
布の塊が落ちてて、
解いてみたらそいつが入ってたんだよ」
少年はぐったりと倒れている。
ヒワと同じくらいだろうか。
手足はひょろひょろと長いが、細く頼りない。
かろうじて胸が上下している。
包まれていたという布を広げると、それは旗だった。
豪華な金の刺繍がされた、赤い布地。
龍と、槍と、兜が描かれている。
「王国の旗だ」
一応、この里も王国の国土だ。
西へ山を降りればいくつもの街と農場がある。
西の果てには海があり、港があり、そこが王都となっている。
しかしこの辺りは、近年まで王国の支配はほとんどなかった。
「どうやってここまで…」
「それに、これを抱えていた」
サルクイが差し出したものに、目を見開く。
「なんでそんなもの」
一本の剣だった。
「兵士には見えないが」
少年を見る。
王国風のシャツを着ている。
あちこち汚れて、靴はない。
「それにこいつ、
古い北の空渡りの血を引いてる」
金髪のようでいて、光に照らされると、朝焼けの空のような、橙とも薄紅ともつかない色。
西の風が、見つめていたのは。
まさか。
しゃがみ込み、上体を起こす。
髪をかき上げる。
傷だらけの顔。
涙の跡がある。
それを撫でたら。
急に。
目が開いた。
色素の薄い。
秋の空のような目だった。
一瞬。
見入った。
「その目…」
少年は。
くたりと目を閉じた。
「おい!
しっかりしろ!」
サルクイが、ぐったりする少年の細腕を掴む。
「まともな物を食ってない。
ここ数日のことじゃない。
長い期間、栄養失調状態だ」
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