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悠 3
話聞いてもらえて気持ちが落ち着いた。
もやもやしてたけど、軽々しく適当に誰かに言うのも嫌だったから。
彼女たちに会ってちょっとでも話せると本当に癒やされる。なんでだろう。
今考えてることは一つ。
今日はちょうど、司書の先生が午後不在の日で、
っていうことは代理をつとめるのは多分、千葉先生。
千葉先生なら、頼みを聞いてくれるかもしれない。
6限が終わって、図書室へ。
何度もどう持ちかけるかシュミレーションしてみたけど、
うまく切り出せる気がしなくてちょっと足取り重くなる。
知りたい好奇心と失敗したら詰みだっていう不安感で。
図書室のやや重い引き戸をぐっと引く。
低めのカウンターにやたら不似合いの大きな姿が視界にはいる。
その大柄な存在感ですぐ、千葉先生だってわかる。
とにかく当たって砕けてみよう。
「先生」
「早いな。一番乗りだ。」
「はい。ちょっとご相談というかお願いがあって」
「ん?課題研究の話か?」
「いえ、全然違って」
どう切り出そうと考えに考えて、直球が一番いいと思った。
先生はいろんなこと見透かしそうで小手先でおかしなことしてもうまくいかない気がして。
「実は、伊東先生のことなんです。
伊東先生が私が読んでる本、次に借りたいっておっしゃってたのがすごく気になってて、本気だったのかリップサービスっていうか単なる会話の流れだったのか、あの時のあの雰囲気がどっちなのかどうしても知りたくて。
だから、先生が予約いれてるかどうかって見てもらうことできませんか?」
千葉先生はちょっと戸惑った顔をした。
「何の本を読むか借りるかっていうのは大事なプライバシー。
それを調べるのはすべきじゃないことだからね」
そう言いながらキーボードを叩き、ディスプレイ画面をわたしのほうにちょっとだけ向けてくれた。
『ケインとアベル』 上・下 ジェフリー・アーチャー
9月18日 予約済み
9月18日。先生が亡くなったその日だ。
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