くるまの一生

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 住宅街を抜けて駅前の大通りに出ると、一気に人の往来が増えた。  気候の良い休日に連れ立って出かける家族、デートを楽しむカップル、ただのんびりと犬の散歩をしている人、カオリさんと同じように乗り物で移動中のご老人も見える。  人の流れに合わせて速度を落とした僕の上で、カオリさんが「あっ、看護師さん」と声を上げた。  道の先を見ると、カオリさんが通う病院の看護師が歩いてきていた。今日は非番なのか、いつもの白衣ではなくワンピース姿だ。  距離が縮まったところで僕が止まると、カオリさんは僕に乗ったまま看護師を見下ろし、「ごきげんよう」と声をかけた。 「あらカオリさん、こんにちは。今日はお出かけですか?」  看護師はいつもの快活そうな笑顔を浮かべ、僕の体越しにまっすぐカオリさんと目を合わせた。 「そうなの。最近は歩くのもつらくって、くるまのおかげで助かるわ」 「カオリさんは身の回りのものへの感謝を忘れずにいて、ご立派ですね」  こんなとき、自分の名前が会話に出ることがこそばゆい。  カオリさんが人前ではいつもの敬称をつけず僕のことを呼び捨てるのも、まるで身内のように扱われているみたいで嬉しかった。  だけど、しがない乗り物の僕がこんな自意識に満ちたことを感じているなんて知られるのは恥ずかしい。  少し離れた雑踏を眺めつつ、二人が話し終わるまで小休止しよう――。 「次の診察日は来週でしたね。また病院でお会いしましょう」 「えぇ。またくるまで行きますから」
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