春の大どんでん返し

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 目まぐるしく移り変わる激動の時代の急流に流されっぱなしになって5年単位で人間が変わって行く。海月のようにあっちへふらふらこっちへふらふら。骨のある者にとってとても馴染めたものではない。この者どもが何でもありの時代、ボーダレスの時代を築き上げ、一昔前までは考えられないようなことが次々に起きるようになった。モラルが崩壊し、破廉恥な者どもがありとあらゆる恥を晒し、醜態を晒し、厚顔無恥を晒し、幾らなんでもそこまではしないだろうという事も起こり得る。昨今の日本政府の失政や政治家の汚職も稚拙で酷いが、ロシアのウクライナ侵攻は被害の膨大さに於いて別格だ。パーキンソン病の所為か、以前の冷徹ではあるが、冷静でない狂人と化したプーチン。ジェノサイドの鬼と化したプーチン。敗北より核を選ぶプーチン。そのプーチンが核ボタンを握っている。この上なく怖ろしいことだ。ウクライナの人々はひと時も生きた心地がしない程、怯えていることだろう。半面、勇敢に戦っている。何でも大統領の命令で国家総動員とかで病身でない限り18歳から60歳までの男は国に残って戦わなければいけないらしい。堪ったものではない。一億総特攻をスローガンに掲げ、本土決戦に備えていた終戦直前の日本みたいだが、原爆を2回落とされてやっと降伏した日本のようにウクライナは核ミサイルを撃たれれば降伏するのだろうか。仮令、降伏してもそれだけでは済まないような・・・核戦争、第三次世界大戦、死の手、カタストロフィ等の文字がどうしてもちらつく。こんな風雲急を告げる時にファンタジーに浸っていられる奴って現実逃避しているのか、知らぬが仏でいるのか、どう足掻いてもしょうがないと諦めているのか、単に阿呆なのか・・・  対岸の火事ではないのだ。日本も危ういと弘は甚だ危惧する。戦争が広がらなくても危うい。一寸先は闇、今直ぐどんな大惨事が直撃しても不思議じゃない日本。家で睡眠中に大地震が起きて家の下敷きになり、寝ている間に死んでしまえれば未だしも下手に命が助かって不具の身で難民になったら地獄の苦しみを味わって死ぬことになる。最悪だ。原発が大地震によって致命傷を負ってメルトダウンして被曝したら、それもまた最悪だ。  知ってるか、北朝鮮が日本海へ向けてミサイル発射実験することが安倍晋三が首相になってから急増したことを。こいつがタカ派的且つ右翼的な言動をしょっちゅうして金正恩を挑発するからだ。そうして北朝鮮だけでなく中国や韓国も挑発して自国を危険に晒しておきながら国を守ると言って安保法(戦争法)を施工し、更には平和憲法の廃止を目論見、実現した暁には軍拡して自衛隊を国防軍とする腹だ。だから北朝鮮がミサイルを日本海へ発射したら岸田は馬鹿の一つ覚えみたいに北朝鮮を批判する前に安部を批判するべきなのだ。しかし、同じ穴の狢だからする訳がない。  野党共闘で臨んでもれいわ新選組は別として批判力のない腰抜けの中でも腰抜けの国民民主や自民よりえげつない維新が足を引っ張って与党に選挙で勝てる見込みがない野党である以上、また今の自民党が刷新されない限り、近い将来、安部の望む今よりもっともっと危険な上、全くトリクルダウンしないアベノミクスを継承する経済政策の所為で益々円安輸入インフレの日本になるに違いない。それでなくてもコロナ大恐慌に加えウクライナ危機により輸入が滞りコロナ感染者急増している中国の生産力低下物流難による供給ショックで物価上昇に拍車が掛かり、剰え実質賃金が下がり続け、スタグフレーションが慢性化し、生活は日に日に苦しく成って行く。  況してウィズコロナがいつまでも続くとなれば、コロナに苦しむ人がどんどん増えて日本の将来は絶望的だ。自分も今にもコロナに罹って・・・嗚呼、何という酷い時代になったものだ。それなのに春になったからっていい年した女のラジオ番組パーソナリティがこれから楽しみですねなんて言うんだろ。ネガティブなことは言えない立場とは言え、どんだけ嘘に騙されてんだ!どんだけリテラシーないんだ!どんだけ無知なんだ!どんだけ能天気なんだ!どんだけアホなんだ!知らぬが仏でいるのも大概にしろ!と声を大にして言いたい。こんなのばかりだから自民党政権の儘なんだ。現に国民の為でなく利権の為の政治をして国民を益々貧しくし、コロナ感染拡大させ、医療崩壊させ、医療難民を失くすという公約を反故にした岸田の支持率が上がってる。何という民意の低さ、定めし、わーい!マンボー解除!GOTOトラベルだ!わーい!わーい!と喜んでいるのも少なからずいるだろう。あんたらね、政府の誤魔化しが愈々効かなくなってからやっと自分たちが危機的状況にあると分かるんだろうけど、ほんとに好い加減にしんと・・・嗚呼、もう駄目だ・・・  斯様に悲憤慷慨する弘に訪れた真実の春とは・・・大学を卒業しても希望のに職に就けず、親にまで金食い虫と罵られ、家にも居た堪れず、ぶらぶら外をほっつき歩いている内に或るホームセンターに入り、つい出来心を起こして万引きをしてしまい、万引きGメンに現行犯逮捕されてしまった。挙動に不審な所があり、目を付けられていたのだ。  微罪処分として警察に釈放された後、弘は愈々家に居た堪れなくなった。言わずもがな親が以前にも増して冷たくなったのだ。  仕方なく3Kで誰もやりたがらないだけに就職しやすい建設業会社に就職し、寮に入ったが、高齢化が進んでいるから若いのが少なく、いるかと思えば、前科がある出所者で柄が悪く、あとは東南アジア諸国の外国人技能実習生が大勢を占めるといった職場だし、元々アウトサイダーだから当然ながら弘は仲間が出来なかった。  仕事が辛い上、煩い親はいないから清々するものの寮での生活は孤独を極めた。そしてまだ春の麗らかに晴れた日、彼は天国へ行こうと足場から飛び降りた。が、その高さはざっと見て2メートル程。余程、一人ぽつんと弁当を食べる弘の様子が心ある者にとって惻隠の情を催す哀愁に満ち溢れていたのだろう。エホバの証人が声をかけたのだ。  内兜を見透かされたようで弘は惨めになるもときめいた。勧誘する彼女が神々しく美しかったのだ。で、天国へ行けると思って彼女の眼前に久米の仙人のように降り立った次第であった。この出会いは不思議なことのようだが、縁は異なもの味なもの、人の出会いに偶発性は付き物だ。  エホバの証人と言うと、胡散臭さは否めないが、彼女は違った。 「あなたは私と同じストレイシープ・・・」  聖母マリアのように囁いた、この言葉が決め手となった。穢れを知らぬ者同士の純愛の始まりである。弘にとって大どんでん返しの一陽来復の春が訪れたのであった。
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