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「そんな! 違います、僕じゃありません、監督!!」  目の前が、真っ暗だ。  いや、世界から色彩が消えている――という方が正しい。そして、足下がブヨブヨと崩れ、沈み込んでいくようだ。 「俺だって、お前がそんなことする奴だなんて思っていないさ」 「じゃあ……!」 「分かるだろう、窪田(くぼた)!」  正面から僕を見つめる吉田(よしだ)監督は、苦し気に表情を歪めた。もしかしたら、当事者の僕より煩悶していたのかもしれない。 「物的証拠が出ちまったんだ。言い訳できないんだよ!」 『だから、違う! それは、!!』  声にならない叫びが頭の中に響いて、目が覚めた。また、同じ夢。もう何度見ただろう。  カーテンの隙間から侵入した淡い光に照らされて、天井に浮かぶ長方形が不自然に白い。瞬きした拍子に、眥から溢れた熱い液体が、切り揃えた揉み上げの縁を通り、五分刈りの頭髪の中に吸収された。  また、泣いていたのか。  滲む視界を擦り、壁の時計を探す。4時15分。やはり、いつもの時間だ。長年身に付いた習慣は恐ろしい。もう朝練に行く必要もないのに、馬鹿みたいだ。 「もう……行けないのにな……」  自分の掠れ声を聞いた途端、塞がり切らない心の傷から、鮮血が吹き出した気がした。鼓動の度にドクドク溢れて、一滴残らず流れ出てしまえばいい。そうしてすっかり干からびたら、あのマウンドを吹き抜ける浜風に砕けて、散り散りに消えてしまえばいい――。
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