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だけどシャルロッテはすぐに自分の考えの甘さを思い知らされる。侯爵家で大事に育てられてきた彼女が井戸の使い方など習うわけもなく、桶を持ったままロッテは途方に暮れてしまっていた。
いくら聖女ではなかった娘だからと言っても、身の回りの世話はしてもらえていたのだから。
それでもこのまま諦めるわけにもいかず、何度も挑戦してなんとか桶一杯の水を汲むことが出来た。これからは全部自分でやらなければいけないのだと言い聞かせ、必死でシーツを洗い錆びた鉄の棒へと干した。
それだけでクタクタになり先ほどの部屋へと戻る。
慣れない作業のせいか空腹を感じ、御者が渡してくれたパンと干した果物を取り出して口に入れたが味もろくに感じない。この食糧だってすぐに無くなる、侯爵令嬢として育てられたシャルロッテにはそれをどう調達すればいいのかも分からない。
……不安な気持ちのまま時間だけが過ぎていく。彼女の父はこうなることが分かっていて何も言ってはくれなかったのだろうか? アンネマリーやカールを説得してくれる事もなく、ロッテはあっさりと見放されたのだ。
「聖女ってなに……?」
アンネマリーが聖女でなければシャルロッテの未来はこうではなかったのかもしれない。考えても仕方ないことばかりが思い浮かんで、彼女の目に涙が滲んでくる。
結局夕方になり、干したシーツを取り込む時間までロッテは惨めさを感じ泣いてばかりいたのだった。
辺境地の夜はずいぶんと冷えて、簡単に食事を済ませてシャルロッテは早々とベッドに潜り込んだ。疲れてグッスリ眠ってしまった所為か、屋敷に入り込む誰かの足音にさえ全く気付かないままで。
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