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「シャルロッテ嬢は騎士団長のカーツハインツ殿との婚約が決まっていると聞いている。体裁を気にする彼がそんな女性をこんな場所に一人で来させるとは思えない」
どうやらこの男性は私がカールから婚約破棄されたことを知らないようだ。ここが辺境地という事もあり、こういった情報が回ってくるのが遅いのかもしれないが。
それにしては彼はずいぶんとカールの性格を知っているようだけど……
「貴方は彼のお知り合いなんですか?」
「……別に。彼は王国お抱えの騎士団の団長なんだ、むしろ知らない方が珍しい」
そう言われればそうかもしれない、シャルロッテは子供の頃から彼の傍にいすぎて感覚がマヒしていたのだろう。それくらいカールハインツは有名な存在なのだと思い知らされる。
だが、彼はもう彼女の婚約者ではない。ロッテとの未来ではなく、妹のアンネマリーを選んだのだから。
「カールハインツ……ベッカー伯爵はもう私の婚約者ではありません。彼が望んだのは聖女であるアンネマリーなんです」
そう話すとシャルロッテは俯いて唇を噛みしめる、あの日の傷はまだ生乾きでこうして口に出すたびに塩を塗られているようだった。
そんな彼女の傷も目の前の男性にとってはどうでもいい事なのかもしれない。そう思うとロッテはなおさら情けない気持ちになった。笑われるのか、馬鹿にされるのかと、少しでもダメージが少なくて済むように心を閉ざそうとした。
その時……
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