雨太郎、過去を語る

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 男性はマンションでの一人暮らしで、身内はいないようだった。ほんのときたま、忘れたぐらいに訪ねてくるのは民生委員の中年女性ぐらいで、それ以外はおらず、話し相手はおれたちネコだけだった。  高齢で働けないからか、他に人間関係はなかった。幸い体は健康で、ヘルパーの世話にもならず、おれたちの面倒もちゃんとみてくれていた。  おれは仲間たちのなかでも古参で、みんなのまとめ役だった。ルールを作り、争いが起こらないよう、それでいて皆を平等に扱った。幸せな毎日だった。  なまじどこも悪くなかったため油断していたんだろうな、その男性もおれたちも。こんな生活が永遠に続くように錯覚していたんだ。  男性はある日、突然倒れた。苦しそうに悶絶するも起き上がることさえできず、そのまま亡くなってしまった。死因は知らない。
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