雨太郎、過去を語る

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 もちろん、ネコのおれたちに男性を救う手立てなんかなく、遺体を放置するしかなかった。  おれたちは閉じ込められた部屋のなかで、食べ物や飲み物を得ることができなくなり、次第に弱っていった。体力のないネコ(やつ)から事切れていったが、当然ながらおれになにができるわけでもなかった。  親分みたいに振る舞っていたのに、なんにもできないのが歯がゆくて悔しくて、目の前で仲間が次々に死んでいくのをなすすべもなく。  息絶えていった仲間たちの死骸に囲まれて、おれも自分の死を意識していたが、やがて絶望すら感じられないほど朦朧としていた。異臭に気づいて誰かが部屋にやってこなかったら、最後まで生き残っていたおれも餓死していただろう。
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