その名は雨太郎

1/8
前へ
/44ページ
次へ

その名は雨太郎

 もともとは保護ネコだと飼い主から聞いていた。雨太郎という雄ネコの名前は、雨の日に我が家にやって来たからだという。  元保護ネコは過酷な扱いをされてきた過去を持つ場合がままある。虐待されていたり、劣悪な環境に閉じ込められていたり。そんなネコは人間を信用したりしない。その意味で可哀想であるといえるだろう。ネコ好きの真っ当な人間に引き取られてもすぐには心を開いてくれない。  それでふらりと家を出て行ってしまう、ということもあるようだ。 「いませんねぇ……」  原田は、先野と同様にライトを照らしながら住宅街を歩いていくが、なかなか見つからない。  ネコの活動範囲は意外と広い。といっても、交通量の多い広い道路をまたいで移動することは稀であった。したがって広い道路で囲まれた範囲が行動範囲だと判断できた。が、この新興住宅街は大きな住宅地であった。一キロ四方はあるその住宅街全体が捜索範囲だというのは、広すぎた。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加