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いま住んでいる新築一戸建ては数年前に建てられたもので、それまでは5人家族にしてはかなり窮屈で手狭な団地に暮らしていた。 壁も薄く、ご近所さんとも顔を合わせる団地でも遠慮なく怒号はほぼ毎日のように飛び交っていて。 あそこは夫婦仲がよろしくないと、きっとご近所さんからも有名だったに違いない。 だからそう考えると、こうして周りを気にせず喧嘩するために大きなお家を建てたんじゃないかとまで思ってくる。 「なら、お前が機嫌とればいいだろ」 「え…?」 「娘はやっぱ違うのかな。父さん、あすかと話してるときはわりといつも笑ってるしさ」 ふとシャーペンの動きを止めた兄は分厚い辞書のようなものをパラパラと捲りつつ、そんなことを言ってきた。 そこに乗るように次男も「確かに」と、マンガに落としていた顔を上げて賛同を表す。 「機嫌とるって、どうやって…?」 「父さんって結局は自分の意見に賛成してくれる人なら誰でもいいとこあるから。 なんていうか、あの人の気分を上げればいい」 「そうそう、そうすれば俺たちだって気を張らなくて済むし。 あすかがバカになって父さんに気に入られれば、母さんとぶつかることも無くなって喧嘩も無くなるよ」 その日から私は、自ら家族にとっての“マスコット”になった───。
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