3/10
前へ
/220ページ
次へ
俺は、期待されていた。 俺は母親に、勝手に、期待されていた。 「志望校を変えたいですって?塾にも通わせて家庭教師だって付けたんだから、さすがに第一志望のところじゃなきゃ許さないわ」 「…俺、普通の公立に行きたいんだけど、」 「なに馬鹿なこと言ってるの。そんなのお母さん恥ずかしくて外を歩けないじゃない」 周りの目を誰よりも気にする人だった。 そして息子の人生は自分の人生と言うように、小さな頃からすべてを決めるような人。 小学校受験、中学受験と、俺の意思などまったく関係なく育てられてきた。 サッカーがしたかった。 なにかスポーツを習いたかった。 そんなことを話すと、小馬鹿にしたように鼻で笑われるだけ。 もちろん聞き入れてもらったことは1度もない。 きっと彼女の中には理想の息子像があって、そんな息子の母親像があるのだろう。 「……ごめん、落ちた、」 わざとだった。 わざと、高校入試の筆記試験では空白だらけの答案用紙を提出して。 そのとき俺は初めて親に反抗したのだ。 「なにやってんのよ、――――出来損ない。」 実の母親から受けたそんな言葉は、実の母親のものだとは思えなかった。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加