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家に帰ると、必ず母は泣いていた。
小さな和室で、なにかを握りしめて、肩を震わせて泣いているお母さん。
そんなわたしはスクールバッグすら下ろすことなく、「ただいま」より先に言う言葉があった。
「お母さん、今日はどうかしたの?」
「志帆…、」
「写真…?」
優しく、それはもう優しく投げかけてあげるのだ。
目の前で泣いているのは母親ではなく、わたしよりずっとずっと幼い女の子。
まだ子供だ。
そう思いながら目線を合わせて微笑みかける。
「これ…、お父さんの部屋から出てきたの…、前に厄年だからって、ひとりでお正月に旅行に行っていたでしょう…?」
「うん、あったね」
「ひとりなんかじゃなかった…っ、この女と行ってたのよ…、」
そこには仲良さそうに写っているお父さんと、見知らぬ綺麗な女性。
わたしに買ってきてくれたお土産は、もしかするとこの女性が選んでくれたのかもしれない。
そう思うと今すぐ捨ててしまいたいくらいに気持ち悪かった。
「どうすればいいの…っ、もうこんなの…嫌……、」
「…お母さんは、どうしたい?」
「……っ、」
言葉を飲み込むように、その先は言わなかった母親。
だけどわたしにはもう分かっていた。
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