21人が本棚に入れています
本棚に追加
日曜日当日、なんとなく自転車の気分ではなく歩きで来た俺は、予定より早く公園についてしまう。
(あー、きっとまだ誰も来てないだろうな)
そんな俺の予想は見事に外れ、前々から谷口可愛いを公言している倉林と、あの日熱いジャンケン勝負を繰り広げた、同じく谷口ファンの加藤が、テンション高く先に来て待っていた。
「おはよ」
「おー一ノ瀬!おまえも早く来たか」
「わかるぞ!制服以外の谷口見れるなんて滅多にないもんな」
「俺も朝からソワソワしちゃってさあ」
(早く優樹来ねえかな)
二人が谷口の話で盛り上がってるのを、ぼんやり眺めながら待っていると、倉林が俺に話を振ってくる。
「てか一ノ瀬何スカしてんだよ?おまえもじゃんけん参加したの谷口目当てなんだろう?」
「いや…」
「ほんどだよな、今まで谷口のたの字もなかったのにさ!」
「だから俺は違うって前も言ったじゃん」
「じゃあなんでジャンケン入ってきたんだよ!おまえ勝った途端よっしゃってガッツポーズまでしてたじゃねえか」
「え?」
倉林と加藤に詰め寄られ俺は戸惑った。優樹と一緒の班になりたかったからだなんて、言えるわけがない。
「…お菓子が好きなんだよ」
「はあ?なんだよそれ!だけど一ノ瀬ならそんなこと言っても、女子達は一ノ瀬君可愛い!とかなるんだよなあ、美形は得だよなあ」
「俺らには通用しないけどな」
「でもさ、谷口が中村好きってマジなのかな?」
倉林がポツリと溢した言葉に、俺たちは全員神妙に黙り込む。好きな相手は違えど、谷口と優樹にくっついてほしくない気持ちは3人とも同じだ。だが、そんな空気をぶち破るように、加藤が口を開く。
「ちょっとこれは検証の必要があるかもしれないな。一ノ瀬!お前谷口に告白してみろ!認めたくはないが、谷口親衛隊の中で一番の美形はおまえだ!そんなおまえの告白も断ったら、谷口は本当にイケメン嫌いで、地味メン中村が好きということになる!」
「はあ?」
加藤の暴論に、俺は心底呆れた声をだしてしまった。俺は谷口親衛隊じゃねえし、優樹は地味メンじゃねえ!可愛いんだよ!と言ってやりたかったが、そこはぐっと抑え、嫌だしとだけ返事をする。すると倉林が、俺の返事に同調するように頷いた。
「俺も一ノ瀬に告白させるのは反対だ加藤。谷口がもし本当に中村が好きだったとしても、一ノ瀬ほどの美少年に告白されたらさすがにコロっとおちてしまうかもしれない。そんなことになったら俺達は、谷口が誰のものでもないという喜びすら糧にすることができなくなる。
中村は奥手そうだし、谷口も自分から告白するタイプにも見えねえし、ここは二人が付き合はないよう細心の注意をはらって見守ってこうぜ!」
何を最もらしく語ってるんだ?と思ってしまうが、倉林も加藤も至って真剣だ。
「確かにそうだな、一ノ瀬も嫌だしと言ったからには絶対に抜け駆けして告白すんなよ」
「だからしねえっつうの!」
勝手なことばかり言う二人に、もっと遅く来れば良かったと後悔していると、倉林があっ!と突然声をあげる。倉林の視線の先に顔を向けると、そこには、肩を並べで二人で歩いてくる優樹と谷口の姿があった。優樹は俺らを見つけるや手を振り近づいてくる。
ジーンズと薄手のシャツに、パーカーを羽織っただけの優樹の格好は相変わらずで、冬なのに寒くないのかな?と心配になってしまうが、俺は優樹の、小学生の頃から色気づくことのない身軽な普段着姿も好きだった。けど今日は隣に、更に小柄な谷口が立っているからか、いつもの優樹より少し大人っぽく見えて胸が軋む。
「みんな早いね」
俺達の刺々しい雰囲気に気づいていない優樹に、倉林が悪態をついた。
「早いねじゃねえんだよ、なんでおまえ谷口と一緒に来てるんだよ!」
「そうだそうだ!ふざけんな!」
「はあ?なんなんだよお前らは!」
俺は、当たり前のように怒りを態度に出せる倉林と加藤が少し羨ましかった。だって俺には、好きな子に好きだとアピールすることも、嫉妬する素振りすらみせることはできない。俺がそれをしたら、クラスでの平和な日常を失ってしまう。どんなに優樹が好きでも、やっぱり俺は、自分が普通というカテゴリーから外れている事を、晴翔以外の友達や優樹に知られるのは怖かった。
「ところで鶴田と五十嵐は?」
だからせめて、倉林と加藤の口撃から優樹を助けようと、俺は話を変える。
「鶴田は今日アニメのイベントがあるとかで来れないって」
「彩は今日朝から塾の補習だって、もしかしたらお昼には合流できるかもしれないって言ってた」
てっきり五十嵐も鶴田も、優樹と谷口をくっつけるために用事があるふりをしているのだと思っていたけど、どうやら違ったみたいだ。とりあえず全員集合ということで、俺たちはそのまま駄菓子屋へ向かった。
最初のコメントを投稿しよう!