第8話

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(駄菓子屋に行く日も、自転車で行ってればよかったな。そうすればこんなことにならなかったのに…)  土曜日当日、俺は、重苦しい気持ちを抱えたまま、図書館に向かい自転車を走らせる。久々に優樹と勉強できるのは嬉しいけれど、谷口を交えて校外で会うのはあの駄菓子屋以降初めてで、正直今は不安の方が大きい。  朝からどうにも落ち着かず、待ち合わせ時間の15分前に図書館に着いてしまった俺は、そのまま二階の学習室へ向かった。するとそこに、俺よりも先に来ている優樹見つけて、俺は思わず声を上げる。 「優樹!」 「シー!ここ図書館」 「ごめん」 「いいよ、それより席とっといたけどここでいい?」  あんな強引な誘い方をしたのに、優樹は俺らより早く来てグループ学習用の席を取ってくれていた。3人で集まる時も、優樹は毎回先に来てくれていたけど、まさか今日までやってくれるなんて思わなかった。 「ありがとう!」 「いいよ、俺も家で勉強してると弟達に絡んでこられて鬱陶しいから、別の場所で勉強したくなる朱音の気持ちわかるし。まあ美緒ちゃんは俺の弟たちよりずっと可愛いだろうけど」  優樹の言葉で、俺は、自分が美緒を理由に優樹を誘ったことを今更のように思い出す。本当は美緒がいても、基本的に母や秀樹さんが面倒を見ているから全然大丈夫なのだけど、優樹が、俺のことを考えて誘いに乗ってくれたんだと思ったら嬉しくて、感謝と愛しさが同時にこみ上げてくる。 「やめろやめろその顔!」 「え?」 「眩しい!笑顔が眩しい!」  なぜか顔を紅くし、目をつぶって両手を顔の前で翳す優樹がおかしくて、俺はなんだよそれと言いながら更に笑ってしまう。 「あーあ、俺も早く彼女作らなきゃな」  だけど、次に続いた優樹の発言に、俺はすぐに、自分の顔が引き攣るのを感じた。 「なん…で?」 「なんでってそりゃそうだろ、朱音も晴翔も彼女一緒でさ、俺だけ一人で勉強会参加だぜ、惨めな気持ちになるからおまえも来てくれって鶴田誘ったのに、断る!とか言われるし」 「おい、彼女じゃねえぞ」  と、突然晴翔の声がして振り向くと、晴翔と槙野と谷口が来て、俺らの近くに立っていた。でも、晴翔の否定と裏腹に、槙野が晴翔の腕に自らの腕を絡ませるくっついているので全然説得力がない。 「えー!晴翔ひどいー!彼女も同然じゃん」 「同然じゃねえし」  腕を払われないがしろにされても全くへこたれず晴翔にくっつこうとする槙野のメンタルの強さには、ある意味感心してしまう。晴翔もうざそうにしながらも、本気で切れたりしないのは、なんだかんだで槙野を気に入っているのだろう。 「朱音と優樹君は一緒に来たの?」 「いや」  谷口に聞かれ、つい焦るように首を振る俺に変わり、優樹が応えた。 「違う違う、俺1人で先に来て席とっといたんだよ、3人で勉強してた時もいつもそう。俺1人で席取りして、朱音と晴翔は後から遅くくるだけ」 「え?俺は時間通りに来てたよ、遅いの晴翔だけだろ」 「いや、朱音も遅かった」 「おい!俺が言うならまだしも、なんでいつも最後に来る晴翔が朱音遅かったとかわかんだよ!」 「3人て本当に仲良しなんだね」  優樹が晴翔に突っ込み、 3人でやいのやいのしていたら、谷口が笑顔で言ってきて、俺は、昨日から必要以上に焦っていた自分を恥じた。考えてみれば当たり前だ。俺が優樹を誘ったり、優樹と図書館に先に二人で来てたからといって、それを谷口が怪しいと疑うはずがない。 (馬鹿か俺は、男が男を好きだなんて、普通中々思わねーよ)  そう気づいたら、俺は少しだけ気が楽になった。一生女が好きなフリなんてできない。だけど中学の間だけならきっと大丈夫。俺と谷口は目指している高校が違う。この間進路の話をしている時、谷口は女子校で一番頭のいい公立を目指していることを知った。 『朱音西校なら、私もそこにしようかな』 『いや、そういうのはいいよ。真央折角頭いいんだから、ちゃんと第一志望目指した方がいいと思う』  違う高校へ行けば自然消滅も狙えるが、一緒の高校になってしまったら難しくなる。我ながら最低だと思うけど、俺は中学以降まで、谷口と付き合う気はなかった。でもだからこそ今は、できるだけ谷口を大切にしてあげたい。 「それじゃあ勉強しよっか」  俺はいつものように谷口に笑顔を向け、自分の隣に座るよう促した。
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