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「ったく!二人がうるせえから俺らまで白い目で見られたじゃん」
「えー!私達のせいじゃないし!中村ムカつくー!ね!晴翔!」
「は?俺は違うだろ!どう考えても槙野だけだろうが!」
あれから結局、おとなしく勉強していたのはものの1時間くらいで、俺たちは皆で、いつものファミレスに移動していた。午後から集まったので、お昼時からは外れているが店内はまあまあ混んでいる。
駄菓子屋の時のトラウマがまだある俺は、谷口と優樹を隣り同士にしたくなくて、自分が真ん中になり、谷口と優樹に挟まれて座った。俺達の向かい側には、晴翔と槙野が並んで座っている。
「私やっぱり志望高校晴翔と同じ高校に変えようかな」
「やめろ、うざい」
「えー!なんでよー!晴翔ー!」
倉林達の時も思ったが、槙野の晴翔に対する好き好きアピールも、ここまでくるといっそのこと清々しい。昨日までは、ギャル系女子の槙野に気後れしているようだった優樹も、率直で裏表のない槙野に心許しているようだった。
「いやでもさあ、槙野と谷口が同じ女子高目指してるなんて意外だったな」
「なにそれ?中村失礼じゃない?ギャル系女は成績悪いって思ってたってこと?」
「違うよ!そうじゃなくて、タイプが違うというか!」
うちの中学は基本的にテストの順位を張り出したりしない。それでも、谷口は可愛い上に成績もトップクラスだというのは有名だったが、今日、実は二人が同じ進学塾の同クラスにいて、槙野が毎回学年10位以内に入る秀才であることが判明したのだ。
「私の夢はね、バリバリ稼ぐキャリアウーマンになって、晴翔みたいなガテン系で超イケメンなヒモを飼うことなんだから。君はペット知らないの?晴翔は働きたい時だけ働けばいいからね!」
「おい!誰がペットだよ!ていうか勝手に決めんな!」
二人のやりとりが面白くてつい笑ってしまう俺を見て、晴翔が大きくため息をつく。
「朱音と優樹君と神谷君は3人で同じ高校目指しるんだよね」
谷口に聞かれ、俺と晴翔は頷いたが、優樹は迷うようにうーんと唸った。
「今さあ、正直どうしよっかなって思ってるんだよね」
「え?」
それは初めて聞く話で、俺は驚き、隣に座る優樹の顔を見つめる。谷口と付き合いだしてから、あまり話せなくなっていたから、優樹が進路に迷いだしているなんて全然知らなかった。
「いや、西高の自由な校風に惹かれてはいるんだけどさ、親や先生に、陸上続けるかわからないならもっと上目指せばって言われて、俺自身も色々考えたら…」
「いやだ!俺優樹と一緒に西高行きたい!」
思わず出た言葉は、何も考えずただ自分の願望をわめく駄々っ子みたいで、言った後凄く恥ずかしくなり顔が熱くなる。
「ほら、3年生になってから一緒に勉強して頑張ってきたし、優樹が一緒だとすごく心強いし、勿論、優樹が行きたいところに行くのが一番だとは思ってるんだけどさ…」
とりつくろうように言い訳をする俺を揶揄っているのか、優樹はなぜか、今まで見たことないようなニヤけた顔で笑っている。
「いやあ、朱音にそこまで言われたら西校行くしかねえか」
優樹の言葉にホッとしていたら、不機嫌な声で晴翔が言った。
「んだよ朱音、俺だけじゃ不満なわけ?」
「そういうわけじゃねえよ」
「何これ!一ノ瀬をめぐる三角関係?BL?ちょっとお!うちら蔑ろにしないでよ!ねえ真央」
一瞬ギクリとしたけど、どう見ても冗談めかしたように笑いながら言っている槙野に安心する。だけど、槙野から谷口の方へ視線を移動した俺は狼狽えた。
谷口は一切笑っていない。
「本当に、特に仲がいいんだね、優樹君と」
探るような瞳で俺を見つめ言った谷口の声に、いつもの朗らかさはなく、俺はつい谷口から目をそらし、もう殆ど残っていないドリンクのコップに口をつける。炭酸も抜け、氷だけになったオレンジソーダは、ただ冷たく喉を通り過ぎていくだけで、なんの味もしなかった。
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