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生きぬく勇気
なつみが俺を責める。
「どうするのよ、この島には食べるものも寝るところもないのよ。まちがえましたですむ話じゃないわ、どう責任とってくれるのよ!」
咲は波打ち際でやどかりと遊んでいる。
じぶんが置かれた状況がまだはっきりわかっていないのにちがいない。むじゃきな子供みたいな女の子なのだ。
なつみが俺をしつこく責める。
「あたしを飢え死にさせたいの、え? あたしはミイラになって千年後に考古学者に発見されたらいいの? チケット間違えるなんてあんたバカじゃない。信じられない。船に乗るとき確認しなったの? するのが当然でしょ。それからこの島に下ろされたときに船長から『じゃあ三人の高校生諸君、がんばって生き抜いてくださいねー』って言われたとき、おかしいと思わなかったの? ふつう気が付くわよ? あんたに任せたのは、なつみ一生の不覚だったわ!」
いちいち気にさわる。そりゃ俺が悪かった。でもそこまでいうことはないだろ。しかし、ここでなつみとケンカしてもはじまらない。
俺はさっき島を歩いてみた。小学校のグラウンドくらいの広さしかない岩だらけの小さい島だ。木もろくに生えていない。水もない。せいぜい生きられて三日。あとは死を待つばかりだ。俺は合理的な人間だからそうわかってしまうと覚悟も早い。すでにあきらめがついている。俺たち三人はこの島で仲良くしかばねになるしかないのである。
視線を感じたので、そのほうを向いた。咲だった。
おおきな瞳から涙が一筋こぼれている。咲のうしろに広大な海が見えた。陸地はみえない、はるか遠くだ。
「咲……涙なんかみせて、きっと心細いんだね」
俺の男心がふるえた。咲はようちえんで昼寝がとなりだったとき、このまま嫁にしたいとまでおもった女だ。
なつみが俺をさらにしつこく責める。
「ボケーッとしてんじゃないわよ! じゅんぺ、あんた話し聞いてるの? それともあたしの言ってることが理解できないくらいバカなの。どうしてくれるのかってきいてんのよ。こんなことになった責任をどうとるつもりなのよ。はだかになって海風に吹かれて干物になりなさいよ。そのくらいしてあたしにつぐなってよ!」
俺はなつみの首根っこをつかんで海の中へ放り投げた。
だれの責任だとか、つぐなうとか、そんなことを今議論しているひまはないではないか。
とにかく生きるのだ!
思いがけない勇気に俺の身体はわなないていた。
考えてもみろ、けっこうかわいい、なつみも口が悪いのをがまんすれば新体操部のエースだし、そんなクラスメイト女子二人と無人島にいるんだぞ。
がんばって生きていれば、きっといいことあるかも知れないじゃないか!
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