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エピソード5
翌日。
「気を付け!礼!」
「休め!」
「回れ!右!」
けたたましい号令を挟みながら、決起式は進んでいく。時折、響きなるサイレンは私の耳を捻じ曲げようとする。
一つの基地に、周辺の中学生が集まっているので、何千人もの人の大群が一斉にうごめく。見守り人の数は、その倍以上はいるだろう。複雑な面持ちを浮かべる者もいるが、大多数は、日本国の誇りとやらに毒されている。
幹が毒されているのならば、花が生きれるわけがないはずなのに…。
決起式の終盤、偉そうなひげ男が台の上に立って、喚く。
「最後に!忠誠の言葉を唱和する!準備は良いか!?」
「はい!」
中学生の固まりが吠える。それを聞いたひげ男が背中を反らした。
「御国のためにーー!!」
この後に続く言葉は、何度かネットで聞いたことがある、私の大嫌いな言葉だ。たまらず、目をギュッとつむり、耳を両手でふさぐ。
「命!捧げます!」
何千人もの中学生の大声は、ふさいだはずの私の耳をこじ開ける。
幹の毒に侵された桜の花たちが、力なく散っていく。そんな情景がまぶたの裏に浮かんでしまった。
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