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どうやら、できたてピカピカのコーヒーカップを、一種“事故物件”として売り出してしまおうというのが魂胆ということらしい。確かに、怖い場所にあえて踏み込んでこようという連中は少なくないし、幽霊が出るコーヒーカップなんてある意味斬新かもしれないが。だからって、せっかくできる新しいアトラクションを、そんな怖いものにしてしまわなくてもいいというのに。
僕は出来たばかりのピカピカの座椅子のチェックをしながら、ため息をついた。
「お前らも大変だな。こんなに可愛いのに、何でいきなり事故物件にされないといけないんだ」
ピンク色のカップの形をした椅子、中心にはぐるぐると回せる銀色のハンドルがある。ハンドルの真ん中には、それぞれウサギや猫、犬といったマスコットキャラクターが笑顔で鎮座していた。これのデザインを担当した人も作った人も、まさか新品同前の状態からオバケ扱いされることになるとは思ってもみなかったことだろう。
そう思うと、なんだか可哀想な気持ちになってくる。普通にコーヒーカップとして楽しんでくれる家族連れもいるだろうが、そういう噂を聞きつけて来るような大人達はきっとろくなものがいないだろう。わざとカップを傷つけたり、汚したりするような奴が出ないとも言い切れない。
そもそも、オバケが出る、というのは面白半分の連中が飽きてしまえばデメリットしかない噂だろう。そのまま本当に怖がられて寂れてしまったらどうするつもりなのか。
「ごめんな。……僕達も、オーナーには逆らえないんだよ」
オーナーが滅茶苦茶なことを言いだすのはよくある話だが、腐ってもオーナーはオーナーなのである。支配人には“ごめん、諦めて”と超ストレートに言われてしまった。これから自分達は、仕事が終わったあともやりたくもないサービス残業をさせられる羽目になるのである。
「本当にごめん」
つまり、この場所にオバケが出る、という噂を従業員総出で流さなければいけないのだ。
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