まわす、まわす。

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 ***  大型掲示板に、ツイッター。いろんなSNSでスタッフたちが書きこみをすると同時に、オーナーが雇ったサクラに幽霊を見たと騒がせる。それによって、本当にコーヒーカップで幽霊に遭遇できるのだというイメージをつけるのが狙いという。 「お祓いしてくれ、頼む!専門家呼んでくれ、頼むから!!」  騒いでいる男性を横目で見つつ座席を雑巾で拭きながら、僕は複雑な気持ちになっていた。少しずつ遊園地そのものの売り上げも伸びている。噂を検証しよう、なんてユーチューブの動画もアップされ始めていることには気づいていた。でも、こんなやり方で本当にいいのだろうかと思わざるをえない。騒ぎが大きくなればなるほど、やりすぎでは、間違っているのえは、という気持ちが拭えないのだ。  それでもこの仕事をやめられないし、結局間接的に加担してしまっているのは、食い扶持を稼ぐのに手段を選んでいられないというのが大きい。僕の年齢では、今から新しい仕事を探すのはなかなか厳しいものがある。東京ならともかく、こんな田舎では転職さえ簡単なことではないのだから。この遊園地がなくなってしまっては困る。 「ほ、本当に見たんだってば!」  しかし、今日のサクラは少々様子が違っていた。彼は落ち着いてくれというスタッフの言葉無視して、とにかくパニックになって騒ぎ続けているのだ。 「う、ウサギの首が伸びて、女の顔になって……!殺してやるって言われて、頚が落ちたんだよ!俺、本当に呪われちまったんだ、妻も子もみてるんだ、なんとかしてくれよおおお!」  自分達が流した噂は、コーヒーカップに乗って回していると、真ん中のマスコットの顔が女性の顔に変わって血の涙を流すというものだった。  首が落ちる、喋るなんて設定はなかった。いつの間に噂が変化したのだろう?  しかもその日の仕事終わりに、支配人に話を聞いた僕は驚くことになるのである。彼は苦い表情で、確かにこう言ったのだ。 「いや、今日の人達サクラじゃないぞ。少なくとも私は把握してない」
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