仲良しミックとアビゲイル。

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仲良しミックとアビゲイル。

「だ、誰か警察呼べ!はやく!」  通行人らしき男性がパニックになって叫んでいる。そう思うなら何で110番しないんだ、と俺は心底呆れてしまった。さほど遠くない場所に交番があるのだから、そちらに駆け込んでもいいのに。――まあ、パニック状態の人間なんてそんなものなのかもしれないが。  ここ最近、すっかり恒例行事になってしまったものがある。それが、ご近所に住む夫婦の喧嘩を仲裁することだった。 「ああもう、何やってんですかあ」  新米の交番巡査の仕事なんてこんなもん。わかっていても、俺はげっそりせざるをえなかった。ぎゃあぎゃあと喚いている男女の間に入り、喧嘩を仲裁しようとする。公園でわあわあと揉めているのは、近所に住んでいるらしき中年の夫婦だった。頭の禿げあがったご主人と、恰幅のいいご婦人。武器を持っている様子はないが、今にも相手に殴りかかりそうな勢いだった。 「あたしは悪くないのよ!」  血走った眼で、唾を飛ばしながら女性が叫ぶ。 「オマワリさん、この人を逮捕して頂戴!あたしの料理が気に食わないからって文句つけてきて、気に入らないなら食べなくていいって言ったら逆ギレよ逆ギレ!それであたしを殺そうとしてくるの、さっさと捕まえてブタ箱に突っ込んで頂戴よ!」 「ああ!?ブタ箱に行くのはどっちだ!!」  女性の言葉に、男性の方も負けじと叫ぶのだ。 「そもそも、美味い料理の一つも作れないお前の方が悪いんじゃないか。結婚したら料理を練習して毎日美味しいものを作るわね、とか言ってたのはどこの誰だ、ええ!?それが、残りもののリサイクルばっかり、しかも手抜き料理ばっかり!ハンバーグの一つも提供できないってのはどういう了見だ!?誰の金で飯食ってると思ってるんだ!!」 「はあ!?ハンバーグなら作ったじゃない、それなのにあんたかまずいまずい言うから!」 「まずいのは事実だろうが、俺を毒殺するつもりなのかと思ったぞ!いや、本当に俺のことを殺そうとしたのかもしれねえなあ、俺のことが邪魔になったんじゃないのか、ええ?食中毒にでも見せかければ、うまい具合いに人を殺すことだってできるかもしれねえもんなあ!」 「何ですって?そんなに文句があるなら自分の飯くらい自分で作ればいいじゃない!大体、先に殴り掛かってきたのは誰よ!?」 「皿ぶん投げてきたのはそっちだろうがよ!」 「何よ!」 「てめえこそ何なんだよ、ああ!?」 「あああああああああああもおおおおおおおおおおお!!」  いつもこんな感じである。自分と、先輩の婦人警官、二人で止めていないとどこまでも相手を罵倒を続ける。ある程度時間が過ぎればテンションも落ちて行き、最終的には二人揃って家に帰っていくのが、そこまでが大変なのだ。  最近はますます時間が伸びている。自分達の仕事は、この夫婦の仲裁だけではないというのに。 ――お願いですから、喧嘩なら迷惑かからないところでやってくださいよおおお!  俺は毎回毎回、心の中で叫びたい気持ちでいっぱいになっているのだった。
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