11. 祖母の死

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11. 祖母の死

腕時計は、18時30分を差している。 亨おじさんが来るまで、あと30分。 しかし、だんだん祖母の息をする間隔が 長くなってきた。 一度祖母が呼吸をするごとに、 私は自分の息を呑み、次の呼吸を待った。 1分1秒がとても長く感じた...... 確実に、目に見えるように、 死という悲しみが忍び寄ってくる。 (おばあちゃん、頑張って。 お願い、もう一度息をして!) 私は死の間際にいる祖母を呼び止めるように、 必死に見つめていた。 祖母は小さく息を吐き出し、 心静かに自分の死を受け入れるかのように、 息を引き取った……  ナースステーションには、祖母の心拍や 血圧等のデータが連動されており、 すぐに担当医と看護士が駆け付けて来た。 そして、医者は心臓マッサージを始めた。 精根の尽きた祖母の体が、 医者の大きな手で勢いよく押される姿は 正視するに耐えないものだった。 (やめて...... おばあちゃんを苦しめないで。 優しく扱って......) 私は声にならない叫びを心の中で叫んだ。 それは母も同じだった。 「もう十分です。 母を楽にしてあげて下さい......」 少し震えながらも、 しかしはっきりとした口調で母はそう言った。 医者は母の言葉を受け止め、 心肺蘇生を行っている手を止めた。  12月9日 18時34分。 大好きな祖母が76歳という若さで亡くなった。 あんなに苦しそうだった姿が、 息が止まった途端、 今までの様子が嘘かのように、 ただ寝ているだけのように見えた。  10年前に祖父が癌で亡くなり、 それから3年後に自分も肝臓癌にかかった。 7年間という長い歳月、 闘病生活を送り通した祖母。 18歳で結婚をして姑に苛められ、今の私には 想像もつかないような大変な経験をした祖母。 祖父と二人だけで、好きなお茶や俳句を しながら、ゆっくりと暮らせるように なったのは、いつからだったのだろう。 やっと、病から解放されて、 今は祖父と一緒に居るのだろうか。 いつか祖母から「小雪は幸せかい?」と 聞かれた。 もしその時、私が祖母に同じ事を聞いていたら、一体何と答えただろうか。 「幸せだよ」と、即答してくれただろうか。 様々な思いが一気に押し寄せ、 私は涙で何も見えなくなった。 「体をきれいに拭いて、お着替えをさせて頂きますので、待合室でしばらくお待ち下さい」 泣き崩れている私と母に、 看護士が静かにそう言った。 私と母は、祖母を残して病室を出た。 母は親戚に電話で連絡を取り、 私は父や亮にメールで連絡をした。  待合室のベンチに腰かけると、 私の心と体は空っぽで、まるで無機質な 何かに化してしまったかのようだった。 しかし涙で濡れて、もうこれ以上水分を吸え ない状態のハンカチを握り締めた自分の手と、 隣で悲嘆している母の姿が、 私を現実へと引き戻した。
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