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12. 星降る夜
しばらくして看護士が、電気も点けずに
待合室に居た私たちを迎えに来た。
後をついて病室へ戻ると、すべての苦痛から
解放された祖母は、顔に白い布を被せられて
眠っていた。
19時過ぎに、亨おじさんが到着した。
そして石倉のお婆さんとお爺さん、
お嫁さんの佐代子さんが駆け付けてくれた。
佐代子さんは母に「よく頑張ったね」と
優しく声を掛け、母は「ありがとう」と
泣きながら答えた。
それから祖母は霊安室へ移され、
葬儀社の寝台車で家に戻る事になった。
後から出た私と亨おじさんが、家の前に着いた時にはちょうど、棺に入った祖母を運んでいる所だった。
亨おじさんは、少しでも安全に祖母を家の中へ
運ぼうと、葬儀屋の人と一緒に、棺に手を
添えて中へ入って行った。
一人になった私は、
しばらく外で空を眺めていた。
「星がよく見える......」
星は金色だけではなかった。
赤く輝いている星、そして黄色や白に光る
明るい星たちが、今宵の空を彩り、
美しさを競い合っているようだった。
東京では見る事の出来ない、
まさに星の降る夜。
この星空の下、少し前に命の貴さを身にしみたばかりの私は、不可解な感銘を心に覚えた。
家の中に入ると、母や亨おじさんたちは
忙しそうに動き回っていた。
台所へ行くと、佐代子さんが上新粉で団子を
作っていた。
「佐代子さん、私も手伝います」
「ありがとう。じゃあ、お団子を49個丸める
のを手伝ってくれる?」
故人の命日から火葬の前まで、
故人の枕元にお供えをする枕団子。
佐代子さんは手馴れた手つきで、
何の知識もない私に分かりやすく説明しながら、次々と必要な物を準備してくれた。
「小雪、少し葬儀屋さんの手伝いをしてくれる? 女性の手が必要みたいなんだ」
枕飾りに使用する樒(しきみ)の葉を片手に
持った亨おじさんがそう言って、
私を呼びに来た。
私が祖母の回りを整えている葬儀屋の人の所へ行くと、白装束を着た祖母に、手首や手の甲を覆うための手甲や白足袋を履かせる役割を頼まれた。
祖母の手や足には、まだ微かな温もりが
残っているような気がした。
しかし、こんなに近くに居て、
そして肌に触れているのにもかかわらず、
祖母は体だけ残して、
とても遠い所へ行ってしまったのだ。
23時過ぎ、長男の聡おじさんが到着した。
奥さんの洋子さんも一緒だった。
それから親戚や組合の方、そして葬儀場の担当者との打合せが次々に行われ、私が布団に入った時は午前3時を回っていた。
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