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5. どんより雲と潤んだ目
12月4日。
昨日の天気とは打って変わり、
どんよりとした雲に覆われた朝。
私は新宿へ直行し、田原さんにデザインを
持って行った。
田原さんは、アルバイトの子にカプチーノを
頼み、4種類の異なるイメージデザインの
中から1点選んだ。
「これにする。この色使い、好きだな」
「ありがとうございます!」
「実は来年、この店の改装をして、チェーン店を横浜の“山手”にも出そうと思ってるんだよ」
「わぁ、田原さん、すごいですね!
山手だったら、フラワーショップとカフェの
組み合わせのイメージがぴったり合いますね」
「だろ?! 前から考えてたんだけど、
やっといい物件が見つかってさ。
で、柳瀬さんに頼みたい事があるんだ。
店内のレイアウトって考えて貰える?」
「えっ、レイアウトですか!
そんな大事な部分を私に?」
「どうかなぁ?」
「嬉しいです。でも正直言って、私自身は携わった事がない分野なので、専門のデザイナーと組んで、ご提案をさせて頂きます!」
私は突然の大きな仕事が舞い込んで来た喜びの為、舌を噛みそうになった。
「OK。じゃあ、決まりな。まだ先の話だから、
今度改めて打合せをしよう」
「はい。田原さん、
本当にありがとうございます」
「ほら、雨が降りそうだから早く帰りな。
土曜なのに悪かったね」
私は深く頭を下げて、店を後にした。
駅に着く頃には、冷たい雨が降り出した。
その日の夜、私は毎晩祖母の様子を携帯の
メールで報告してくれる母に電話をした。
「お母さんは体、大丈夫? ずっと病室で寝泊りしていると、疲れが取れないんじゃない?」
「大丈夫よ。娘の私には傍に居てあげる事しか出来ないから。でも、最初、先生は2、3日って言ったのに、心拍数が安定しているのよ。
ほとんど目を瞑っている状態なんだけどね」
「そうなんだ...... 8日まで頑張って欲しいな」
「そうね。おばあちゃんも小雪の事を
待っているのかもね」
私は潤んだ目で、
窓を滴る雨粒を眺めながら電話を切った。
田原さんが一部の文字修正を除いて、
全体のデザインを一度で気に入ってくれた為、
入稿までのスケジュールは予定通り行われた。
仲間やクライアントの協力のおかげで私は
大事な仕事を乗り越えることができた。
そして7日の18時過ぎ、私は須藤さんと
弥依、そして他のスタッフに明日から
12日まで休みを頂く挨拶をし、帰宅した。
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