5. どんより雲と潤んだ目

1/1
前へ
/20ページ
次へ

5. どんより雲と潤んだ目

12月4日。 昨日の天気とは打って変わり、 どんよりとした雲に覆われた朝。 私は新宿へ直行し、田原さんにデザインを 持って行った。 田原さんは、アルバイトの子にカプチーノを 頼み、4種類の異なるイメージデザインの 中から1点選んだ。 「これにする。この色使い、好きだな」 「ありがとうございます!」 「実は来年、この店の改装をして、チェーン店を横浜の“山手”にも出そうと思ってるんだよ」 「わぁ、田原さん、すごいですね! 山手だったら、フラワーショップとカフェの 組み合わせのイメージがぴったり合いますね」 「だろ?! 前から考えてたんだけど、 やっといい物件が見つかってさ。 で、柳瀬さんに頼みたい事があるんだ。 店内のレイアウトって考えて貰える?」 「えっ、レイアウトですか! そんな大事な部分を私に?」 「どうかなぁ?」 「嬉しいです。でも正直言って、私自身は携わった事がない分野なので、専門のデザイナーと組んで、ご提案をさせて頂きます!」 私は突然の大きな仕事が舞い込んで来た喜びの為、舌を噛みそうになった。 「OK。じゃあ、決まりな。まだ先の話だから、 今度改めて打合せをしよう」 「はい。田原さん、 本当にありがとうございます」 「ほら、雨が降りそうだから早く帰りな。 土曜なのに悪かったね」 私は深く頭を下げて、店を後にした。 駅に着く頃には、冷たい雨が降り出した。  その日の夜、私は毎晩祖母の様子を携帯の メールで報告してくれる母に電話をした。 「お母さんは体、大丈夫? ずっと病室で寝泊りしていると、疲れが取れないんじゃない?」 「大丈夫よ。娘の私には傍に居てあげる事しか出来ないから。でも、最初、先生は2、3日って言ったのに、心拍数が安定しているのよ。 ほとんど目を瞑っている状態なんだけどね」 「そうなんだ...... 8日まで頑張って欲しいな」 「そうね。おばあちゃんも小雪の事を 待っているのかもね」 私は潤んだ目で、 窓を滴る雨粒を眺めながら電話を切った。 田原さんが一部の文字修正を除いて、 全体のデザインを一度で気に入ってくれた為、 入稿までのスケジュールは予定通り行われた。 仲間やクライアントの協力のおかげで私は 大事な仕事を乗り越えることができた。  そして7日の18時過ぎ、私は須藤さんと 弥依、そして他のスタッフに明日から 12日まで休みを頂く挨拶をし、帰宅した。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加