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『十二年前、私に魂を売った者たちの手によって何人もの命が失われ、今もトラップとともにこの世に留まっている。それらを開放してやってくれ』
アーロンは驚いたように目を見開いた。
「私がですか? 見つけられるかどうか……」
『沙綾なら同じ波長の者を見つけるくらいたやすいだろう。沙綾はどんな悪夢にも耐えた。神の存在を心から信じているからこそ出来たことだろう。死んだことは気の毒だが、神の手伝いが出来ると聞けば喜んで働くに違いない。なぁラファエル』
アザエルが問いかけると、ラファエルも頷く。
『良いだろう。それくらいは神も許すはずだ』
アーロンは不思議そうにアザエルを見た。
「なぜあなたのような方がそこまでしてくださるんですか?」
『……きっと神がイブの魂を人間界に堕としたのは、私たちへの配慮だったと思うのだ。神なりに同じ事を繰り返さないようにした……私はそう思いたい』
アザエルは懐かしむように目を閉じた。天界で過ごした日々はもう過去のこと、私は神の使徒ではないーーそして目を開けると、丈太へと視線を移す。
『それと小僧、あまり下心丸出しだと嫌われるぞ。ちゃんとレディーとして扱うことだ』
「し、下心なんか出してないわ! なんでいきなり説教されなきゃいけねーんだよ! っていうか、みんなして俺をどういう目で見てんだよ⁈」
急にアザエルから指摘を受けた丈太は、否定しながらも心当たりがあるのか目が泳ぐ。それを見てアザエルは呆れたようにアーロンを見た。
『今時の男は皆あんな感じなのか?』
「いえ……彼が特殊なだけです」
『ならば安心した』
アザエルは片手を上げると、辺り一面、黒いモヤに覆われ、強い風が渦を巻くように吹き荒れた。彼は不敵な笑みを浮かべると、その渦の中に吸い込まれていく。あまりの強風に、丈太とアーロンは目を閉じた。
風が止み、二人が目を開けた時には、既にアザエルの姿は消えていた。
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