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「どっちだと思う?」
悪いねオリビア、とジルは言いました。
その口調がさっきより低くなっていることに、ジルは気が付いていました。
「現状から逃げるために賊になるって奴を相棒に持つ気はないね。それと、国のために戦うのが嫌だから、自由な空賊になりたいってか」
彼は噛んで含めるようにいいかい、と前置きしました。
「この国で起きていることを、見せてやるよ」
そう言って艦の速度を上げながら、隣国と国境を接している方向へ“嘆く蜜蜂号”を飛ばしました。
艦はだんだん速度を上げたので、エンジンが甲高い叫び声を上げて、オリビアは背中を大きな手で引っ張られているような気持ちになりました。
“嘆く蜜蜂号”が猛スピードで空を突っ走ると、前に分厚く積み重なった雲が見えてきました。
手のひらに乗りそうな大きさだった雲は、近付いていくとどんどん大きくなって、映像盤を覆ってしまいました。
ジル達は雲に向かって真っ直ぐ飛んで、そのまま突っ込みました。
艦体がガタガタ震えながら、それでも艦は進みます。
「“帝国”から侵略されたとき、この国は正直ナメてたんだよ。あんな国、自分たちを“魔導帝国”なんて名乗って調子に乗っちゃいるが、多少魔法を使える国民がいる程度。機巧技術国家である我々が負けるわけがない。そう言い続けて、対応なんてろくに取ってなかった」
ガタガタがだんだん強くなって、思わずオリビアはジルが座っている椅子に掴まりました。
「それが5年続いて、ある時誰かが気が付いたんだ」
ぼふ、と音を立てて艦は雲海の上に出たようでした。
一気に外が明るくなって、オリビアは思わす目をつむりました。
ややあって、目を開けられるようになると、オリビアは息を呑みました。
「この国の空は、とっくに帝国に取られちまったって」
抜けてきた雲はまるで地面のようにどこまでも広がって、空の上だというのに、目の前には巨大な城が浮かんでいました。
まるで地面の上に建っていた城を巨人が地面ごと掘り起こして、空に放り投げたようでした。
城からは何本もの尖塔が斜めに伸びて、それぞれの頂上に足場のように大きな張り出しが付いていました。
そして、すべての尖塔の屋根には旗竿が立ち、帝国の国旗を風になびかせていました。
「帝国に生まれた、たった一人の魔女がこいつをやったって話だ」
「……帝国がこんなに侵攻してきていたなんて、そんなこと、誰も言ってなかった」
「『空は我々が守るべき領土に非ず』だからだそうだ、ふざけてやがる」
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