9月

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9月

夏休みが明けた。 まだまだ残暑は厳しく、秋の気配は感じない。 愛子と愛生は、高校3年だ。 そろそろ進路を決めなくてはいけなかった。 2人とも大学に進学する事は決めていた。 ただ、どの道に進むか、具体的な事は決めていなかった。 2人の成績なら、希望の進路に進めるだろうが、本人たちはまだ決めかねているようだった。 金曜の夜、愛生は、愛子の部屋にいた。 週末は、大概、どちらかの家にいた。 最近は、受験生らしく、時々は勉強もしていた。 そして、今日は、2人とも珍しく勉強をしていた。 「愛生、そろそろ進路を決めないとね。」 愛子が言う。 「う〜ん。そうだね。」 愛生が、勉強の手を止めて、バタンと寝転ぶ。 「愛子はどうするの?」 「う〜ん。そうだなぁ。」 進路の話になると、2人とも歯切れが悪い。 でも、2人ともわかっていた。 なぜ歯切れが悪いのか。 「あのさ…。」 2人が同時に言う。 「何?」 また、2人の声が重なる。 2人は顔を見合わせ、ケラケラ笑った。 ひとしきり笑うと、改めて、愛子が言った。 「進路の事。愛生は、経済の勉強をしたいんでしょ。お父さんの会社を継ぐために。」 愛生は頷き、愛子の方を向き言った。 「そう。私、一人っ子だから。愛子は、心理学を学びたいんでしょ。みんなと違う子を助けたいんだよね。」 愛子も頷き、 「私みたいに、みんなと同じように生きれない人の手助けができればと思って。」 静かに言った。 沈黙の時間が流れた。 「初めてだね。バラバラになるの。」 愛子が淋しそうに言った。 「そうだね。15年、ずっと同じクラスだったもんね。」 愛生も淋しそうに言った。 2人とも同じ大学、同じ学部に行きたい気持ちはあった。 でも、ここから先は、それぞれのやりたい事に向かって、違う道を行かないといけない。 そんな事は、理解している。 でも、どこかで、この先もずっと一緒なんじゃないかと思っていた。 2人とも、言葉を失ったかのように静かな時間が流れた。 愛生が静寂を破り、静かに言った。 「仕方ないよね。いつまでも、子どもではいられないんだから。それぞれのやりたい事を叶えるには、いつまでも、毎日いっしょにいるわけにはいかないよね。」 愛子もうなずき、 「そうだね。ずっと一緒にいたかったけど、私たちも大人になっていくんだね。」 しみじみと言った。 「私、朝、起きられるかな。」 愛子が、ハハハと笑った。 多分、2人とも地元の大学に行く事にはなるだろう。だから、きっと毎日会う事はできるはず。 でも、今までのように、横を見たら、愛生がいる、愛子がいるというわけにはいかない。 物心ついた時から一緒にいて、両親よりも長い時間を一緒に過ごしてきた。 いろいろな事を、2人で相談し、2人で乗り越えてきた。 「愛生…。」 「愛子…。」 「きっと大丈夫だよね。」 2人は同時に言った。
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