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「澪……久しぶり。元気にしてたか?……同窓会、来るんだってな……空港まで、俺が迎えに行くよ。ばあちゃんももう歳だし……」
約2年振りに聞いた幼なじみの声は、あの頃と変わっていなかった。
そして思い出す。波の音と海のにおい。あの時のあいつの傷ついた、顔。
東京から飛行機で空港に降り立つ。段々と故郷に近づくにつれて、俺の心は沈んでいった。
この先は交通の便が悪く、バスや電車で移動するより車を使った方が早い。不便な田舎。だから帰ってきたくなかったのだけれど。
まして幼なじみのーー大貴の運転する車で移動するなんて。あんなに酷い別れ方をしたのに。
空港から故郷まで車で2時間近くかかる。その時間は苦痛だったが、タクシー代もなく、大貴の送迎をありがたく受け入れることにしたのだ。
出口から外へ出て、大貴を探す。長身で他の人より頭ひとつ抜き出ているからすぐに見つかった。黒髪の短髪は学生の頃から変わらなかった。
「よ」大貴が俺を見つけて手をあげた。
「……おう」
「車、こっち」
先に立って歩く大貴の後を追う。緊張したが、拍子抜けするくらい、彼は普通だった。
「……悪いな、こんな遠くまで」助手席に乗りシートベルトを締めながら、俺は言った。
「気にすんな。知ってんだろ。地元には店がないから、休みのたびによくこっちまで来るんだって」
それから大貴は、同級生が結婚したとか、家を継いだとか世間話をした。俺も相槌を打ったり笑ったりして表面上は学生時代に戻れたような気がしたが、あの話題には触れられないでいた。
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