Stage 1

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Stage 1

 文は百万分の一の子だった。それはテニス部入部時、明らかになった。  ろくに運動したことがない文は、偶然テレビで流れていたオリンピックの映像を見て、テニス部に入部した。彼女は形から入るタイプだったため、入部前から動きやすいようショートカットにして、たいした知識もないままラケットを買ってしまった。  練習日初日、新入部員にボールを打つことなど許されない。体力づくりのため、文は同級生とともにランニングをさせられることになった。  ランニングがはじまった数秒後、文は立ち止まった。文がふざけているのだと思ったムードメイカーの先輩は、さながら芸人のように突っこんでみせた。おもりつけとるんかい、と。  その言葉は届かなかった。  尋常じゃない量の汗、呼吸の勝手がわからなくなった絶望感、ぐにゃりと歪んだ荒いコンクリートの地面、それらすべてが文の五感を遮断した。彼女の四肢は地に吸い寄せられ、じきにぺたりと這いつくばる体勢となった。  頭の中でどくどくとうるさい鼓動と、周囲で鳴る靴音が重なる。文はますます呼吸のリズムが掴めなくなった。呼吸器官が鼻と口ではなく、どこか動かしたこともないような場所に移ってしまったのだろうかとさえ感じた。  文はまるで、世界から自分以外が消えてしまったような感覚に陥った。
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