Stage 2

2/2
前へ
/13ページ
次へ
 文は病室で中学二年生になった。  モニターの先で、先生と生徒が自らの手元を凝視している。日直を書くためだけにあるお飾りの黒板とは違い、先生がすらすらと書き記す文字は、生徒が持つタブレットにほぼ時差なしで送られる。  四限は数学だった。タブレットにて課題を解いて送信するだけで瞬時に丸つけがされ、先生は出来が悪い解答にだけ解説メモを書き加え返却する仕組みだ。  文は間髪入れず全問解き、静かな教室を眺めた。母親は一年前、この方法なら教室にいなくてもみんなと同じように授業が受けられると喜んでいた。  しかし、カメラがオフになる休み時間と昼食時間はそうではない。学生はその時間のためだけにわざわざ登校しているのだ。モニターが真っ暗になったとき、本当の意味で、学校ははじまる。  全問正解、タブレットの画面が大きな赤字に占領された。ほぼ同時にため息が漏れた。  かつての文にとって、赤い字は勉強のイメージが強かった。  が、今朝、小倉がナースに呼ばれ数分離席した間、文は彼のバインダーに書かれた赤い字を見つけた。それは羅列された難解な言葉と相まって、古代の呪術のような恐ろしさを放っていた。 「心エコー検査にて推定肺動脈圧の上昇及び右室拡大所見を認める。右心カテーテル検査にて規定値を超える肺動脈圧が確認された場合、臨床所見を鑑みて、『ステージ3』へ移行する。その場合、『肺血管拡張薬の併用』を提案」  教室で誰かのお腹が鳴った。笑いが起きる。みんな他人事ではないようで、教室のあちこちで空腹を嘆く生徒があらわれた。  文も腹が減っていた。それは育ち盛りによるものではなく、徹底的に管理された食事のせいだ。血圧上昇を避けるための食事に愉しみを見出せる人間なんていない。  四限終了のチャイムが鳴る。文は気にもしなかった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加