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第2話 地下99階
――99F――
降りたら、大部屋の中か。
「……おおっ!」
前方に下へと続く階段、発見。僥倖(ぎょうこう)だ!
俺は階段へと歩を進める。
「ニンゲン⁉」
俺の背後から、誰かが叫んだ。
俺はチラッと振り返ってみると、そこには 魔獣キンノウがいた。キンノウは特殊能力こそ無いが、全魔物中トップクラスのパワーを誇る。手持ちのアイテムが尽きた今、最も相手にしたくない魔物だ。
タッタッタ
俺は必死に走る。
タッタッタ
キンノウも後ろから追いかけてきている。
大丈夫…逃げ切れる!
キンノウはパワーこそ凄いが、素早さは然程無い。階段を下りてしまえば、聖なる結界で守られた宝物庫。ヤツは入ってこれない。
「マテエエェ!」
待てと言われて待つ奴が何処に――。
「うわっ!」
何かが俺の足に引っ掛かった……トラ挟みの罠だ!
クソッ! こんな所に隠しトラップがあるとは。
幸い、足に怪我は負っていないが……トラ挟みを外している間に、キンノウに追いつかれてしまう。
――迎え撃つしかない!
大丈夫、イケる。
俺の剣は、睡眠、混乱、目つぶしなどの特殊効果が付いている。
きっと、それらの効果の中で、どれか一つぐらいは発動してくれるに違いない!
俺は振り返り、キンノウと正対する。腰に帯刀してある剣を抜き、構えを取る。
「ウオオオオオー」
キンノウは雄叫びを挙げながら、俺に勢いよく近づいてくる。
3……2……1……今だ!
俺は渾身の力で剣を振り下ろした。
スカッ
だが、無情にも剣は空を斬った。
しまった! 両足が上手く動かせないせいで、バランスを崩してしまった!
「コンドハコッチノバンダ!」
キンノウは右腕からストレートパンチを繰り出した。
それが、バランスを崩し、防御態勢を取れない俺の腹部に直撃した。
「ぐわっ……」
強烈な一撃……何とか持ちこたえたが……何で、よりにもよって腹に! 駄目だ、突破する!!
「ブリブリブリブリブリ」
「アッ…」
「…………」
「…………」
俺達二人の動きは完全に止まる。
「…………」
「…………」
ヒュウウウ――
部屋の中には、発生源が分からない風の音だけが響き渡る。その風は、俺のアスタリスクから乱れ散った液体の匂いを鼻に運んでくる。
「……ガマンシテタノカ?」
キンノウは悲しげな顔をして、俺に尋ねた。
「…………」
俺は無言でコクリと頷くしかなかった。
「ソウカ……」
「…………」
「オレモオサナイコロハヨクアッタ」
変に気遣うなよ。余計に惨めだわ。そもそも幼い頃って……今は漏らしてないだろ。俺は成人なんだぞ……。しかも、小じゃなくて大だぞ……。
「……有難う」
心の声と裏腹に、俺は気を遣ってくれたキンノウに感謝の言葉を述べた。
「ジャアナ……」
キンノウは踵(きびす)を返す。
ザッサッザッ
そして、部屋から去っていった。
「…………」
俺はトラ挟みを外し、階段を下り始める。
ヌギヌギ
ポイッ
下りる途中、俺はパンツとズボンを脱ぎ、99Fの中に投げ捨てた。そして、98Fで拾った巻物を褌(ふんどし)代わりに巻いた。
大概(たいがい)な格好。それでも、アレをブラブラさせたままよりは遥(はる)かにマシだ。
要らない巻物だったが、捨てずに正解だったな……。
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