第1話 地下98階

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第1話 地下98階

「ハア……ハア……」 「どこだ! あの剣士はどこへ行った⁉️」  魔物の群れは、岩場の影に隠れた俺に気付かずに走り去っていった。 「ふう。どうやら、上手く撒(ま)けたようだな」  俺はほっと一息をついた。  ――よし行こう。あと一踏ん張りだ。  ザッサッザッ  俺は魔物の群れが過ぎ去っていった方向と逆の通路へと歩き出した。 「それにしても、この洞窟(どうくつ)の魔物達は強敵揃いだな……」  俺が流浪(るろう)の剣士として、各地を旅して早三年。その旅の途中、様々なダンジョンに挑戦してきた。洞窟や塔、城さえもあったりした。  当然、ダンジョン内には魔物がいて、様々な強敵とも出会ってきた。  そんな、経験をそれなりに積んだ俺だが、この洞窟の深部の魔物達はハンパない……過去一の強敵揃いだ。  壁の中から攻撃してくるお化け。見えない所から炎を飛ばすドラゴン。  ソイツらを倒すために、手持ちのアイテムを湯水のように使っていった。  お陰でアイテムはもう空……矢の一本も残ってやしない。  魔物と正面切って戦うのには、ヤバイ状態だ。  ――いや、もっとヤバイことがある! 「グルルルル」  ……俺のお腹の状態だ。  やっぱり、あのおにぎりを食べたのはまずかったな。先へと進むためや、魔物から隠れるために泥沼に浸かったりしたから、巾着(きんちゃく)袋(ぶくろ)の中に入れていたおにぎりがデロデロになっていたし。  そんな、明らかに腐ったやつなのに、俺がドラゴンの炎をお見舞いされた際、都合よくおにぎりも焼けたからといって、 「焼きおにぎり完成だ」  と自分に言い聞かせて食すのは、我ながらちょっとなあ……。  でも、腹減って倒れる寸前だったし。  そもそも、おにぎりを保存用の壺に入れとけば――。 「グルルルル」  うおお、ヤバイ! 突破寸前だ!  俺のお腹よ、あと少し踏ん張ってくれ。不幸中の幸いにも、現在地下98F。100Fの宝物庫(ほうもつこ)は、聖なる結界で守られているので、魔物が近寄れない。  要するに、俺はここと次のフロアを下りてしまえばいい。  帰りは、宝物庫にある『えすかれーたー』に乗って帰るだけだ。あの奇妙(きみょう)奇天烈(きてれつ)な箱の乗り物なら、地下100Fから地上まであっという間だ。地上に出たら、すぐにトイレへ駆け込もう。  ――昔はダンジョン攻略の際には、往復するのが当然だったのに、今は往路だけ……本当、便利な世の中になったなあ。  ザッサッザッ  俺は魔物の気配を探りながら、慎重に歩を進めた。すると、小部屋が視界の中へと。  俺は早歩きで、小部屋の中へと入った。  入ると、すぐそばの足元に巻物が落ちていた……端っこの方には階段だ!  魔物は誰もいない。よし。  先ず、俺は巻物を拾った。  何々……要らない物をおにぎりに変えることができる巻物……うわ、要らねえ。もう少し、早く拾えたならなあ。そうしたら、あんな腐ったおにぎりを食べずに済んだし。クソッ!  トントントン。  俺は階段を下りた。
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