みずほ先輩と美術部の不思議な絵

10/12

35人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
★ 「待たせたなエブリワン!」 宇和野先輩が生徒会室に戻ってきた。背後には長髪で上品そうな女子学生の姿もあった。 ――鮎川先輩、来てくれたんだ。 宇和野先輩は俺に向けて親指を立てる。鮎川先輩は目を腫らしていた。それにひどくよそよそしい。 でも、これでよかったんだと思う。 ふたりとも絵で想いを暗示していたくらいだから、無理やりにでも連れてこなければもう会うことはなかっただろう。 「鮎川、まあ座れよ。最後の謎解きがあるからさ」 宇和野先輩はつとめて明るく振舞う。鮎川先輩は遠慮がちに腰を据えた。 みずほ先輩も結奈を連れて戻ってきた。 当の結奈はひどく泣き崩れた後の顔をしている。 ――そういうことだったのか。 一堂に会した皆の表情を目の当たりにし、俺はすべてを理解した。 そして真相は明かされた。 村本先輩と鮎川先輩は、同じ大学に受かったら恋人になろうと心に決めていた。約束を交わしたわけではなかったが、そんな暗黙の了解があったらしい。 だからに気づいていた鮎川先輩は、せめてもの思い出にと、絵の中で村本先輩の隣に結奈の席を用意した。それが結奈が一年生でありながら村本先輩の隣に描かれた理由だった。 けれど鮎川先輩だけが東京の国立大学に合格し、離れ離れの運命となってしまった。 だから鮎川先輩は自分の絵を消し、新しく村本先輩の絵を描くことでこう伝えようとしていた。「これからはわたしではなく、結奈ちゃんを見てあげて」と。 「……結奈ちゃんは、村本君のそばにいてあげられるひとだから」 鮎川先輩は、ぽつりとさみしそうにつぶやいた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加