みずほ先輩と美術部の不思議な絵

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皆の視線が結奈に集まる。結奈は肩を震わせ、うつむいたままでいた。沈黙が生徒会室を支配する。 村本先輩がそっと結奈に声をかける。 「俺――」 すると突然、結奈は意を決したように腰を上げた。村本先輩の前に立ちはだかり叫ぶ。 「村本先輩、大学にいっかい落ちたくらいで大切なひととお別れできるなんて、あたしには信じられません! そんないくじなしで薄情なひと、あたしがあこがれた村本先輩なんかじゃありません!」 村本先輩はぽかんと口を開けている。結奈はさらに鮎川先輩をびしっと指さした。 「鮎川先輩、ふたりが描き換えた絵、お互いの気持ちがだだもれでしたよ! ふたりともこんなに想いあっているんですから、村本先輩がお情けで付き合ってくれても、鮎川先輩のことをひきずるに決まってます!」 鮎川先輩も言葉を失っていた。 結奈は目に涙をため、ふたりに向かって声を張りあげる。 「先輩たちは一期一会の両想いで、くそまじめなふたりですから、絶対、絶対、ぜーったい浮気なんかしないで遠距離恋愛できますよ! それに世界はいつだってぐるぐる回ってるんですから、大学の四年間なんてあーっというまで、その先には新しい未来があるんですよ!」 思いのたけを吐き出した結奈は息を切らしている。そして振り向き、強がりのブイサインを俺に突き出してみせた。 その顔はまるで雨上がりのまぶしさを宿しているようだった。 そう、最後の描き換えは、自ら身を引いてふたりの幸せを願う結奈の、渾身の仕業(メッセージ)に違いなかったのだ。
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