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みずほ先輩と俺は結奈をカフェに誘った。おごる代わりに知っていることを教えてもらう約束だった。
結奈はガトーショコラをほおばりながら美術部の活動についていろいろ語ってくれた。
「ああ~、村本先輩が消えちゃった件ですね。どうしてなんでしょう」
絵のことは知っていたようだが、揉め事の類はなかったらしい。
「ところで消えた村本先輩の右隣は結奈ちゃんで間違いないのかな」
「あっ、そうなんです、よくわかりましたね!」
結奈はこくりと首を縦に振る。けれど俺は疑問に思った。
「この順番、どうして一年生の結奈が真ん中の方にいるのさ」
「あっ、鮎川先輩があたしの場所をここに指定したから」
「鮎川先輩はこの左側のひとよね。あなたを特別扱いしたかったのかな」
「わかりませんけど、ちょっと特等席の気分かも」
光が差すような笑みの表情をみせる。そこに嘘の気配はない。
「そういえば、村本先輩と鮎川先輩ってどんな関係だったの」
その質問が意外だったのか、表情の変化がぴたりと止まる。
「あ、えと……。とっても仲良かったです。周りは恋人になればいいのに、って思ってたくらいなのに、どっちも草食系で、だから進展はなかったみたいですけど」
「そうなんだ。でも、ふたりの進路ってどうなったのかな」
「ふたりとも東京の大学を目指してたみたいです」
「へぇー。結局どうなったか知ってる?」
「さぁ……」
結奈は目をそらしながら首を傾げた。しばらく無言のときを過ごす。
そこでみずほ先輩がパンと両手を合わせた。
「うん、これで聞きたいことは全部。今日は来てくれてありがとう」
「いえいえ、あたしの方こそ嬉しかったです。憧れのみずほ先輩に誘ってもらえるなんて」
そう言って結奈は目を細めて笑う。
けれど俺にはその笑顔がどこか物悲しく見えた気がした。
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