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「ねえ、あの絵見た?」
翌日、みずほ先輩は慌てた様子で俺に話しかけてきた。
「先日、一緒に見たじゃないっすか」
「そうじゃないのよ、ちょっと来てよ!」
腕を強引に引っ張られ、美術室へと連行される。
そこで目にした絵に俺は驚きを隠せなかった。
あの絵が、さらに描き換えられていたのだ。
村本先輩の姿が元に戻されていた。しかも顔が空ではなく右を向いていた。結奈の方だ。
そして今度は、鮎川先輩の姿が消えていたのだ。背筋に冷たいものが走る。
「これ、やっぱり幽霊の仕業っすね」
「そんなわけないでしょ!」
「ところで、消えた本人たち、村本先輩と鮎川先輩はこの現象に心当たりあるんですかね」
「わたしだって聞けないわよ」
接点のない先輩方に事情を尋ねるのは無理だろう。そこで俺は思いつく。
「そうだ、宇和野先輩に聞いてみたらどうっすか」
「そうね、それが近道かも」
すぐさま宇和野先輩にSNSで連絡をする。
『あの絵がまた描き換えられてました』
ふたりで画面を見て待つと、すぐに返事がきた。
『おせーよ。それ皆知ってる』
奇妙な現象の噂は瞬く間に校内を駆け巡ったようだ。
『すんません。ところで消えた絵の張本人、村本先輩と鮎川先輩って知ってます?』
『ああ、鮎川のほうは同じクラスだけど』
しめた、何らかの情報が手に入るかも。
『あのふたりって仲良かったみたいですけど、その後どうなったかわかります?』
『どこまで行ったかってことか?』
『そうじゃないっす! どこに行くかです、進路のことです!』
宇和野先輩はいつも微妙にずれている。それなのに受験は全勝だったらしい。世の中何が正義なのか俺にはさっぱりだ。
『ああ、鮎川は東京の国立大に受かったけど、村本の方は知らないな。そっちのクラスの奴に聞いてみる』
『ありがとうございます』
『でもたぶん落ちてると思う』
画面に表示されたその一文に、俺とみずほ先輩は顔を見合わせた。
『鮎川、やけに元気なかったからさ』
そのメッセージを目にした俺は、それ以上何も返せないでいた。
その後、宇和野先輩から折り返しの連絡があった。
宇和野先輩が予想した通り、村本先輩は国立大学には不合格で、地元の私立大学に通うことになった、とのことだった。
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