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卒業式まで残すところあと三日だというのに、俺達は真相に近づけずにいた。
そんなとき、ふたたび事件が起きた。クラスは噂話で持ちきりだった。
「また描き換えられたらしいよ。あの絵」
――まじかよ、今度はいったいどういうふうに?
百聞は一見にしかずだ。直接見たくなり、足が勝手に動いていた。
そして目にした絵は、昨日とは違う姿をしていた。
中央の村本先輩は健在だった。しかし、顔はふたたび空を向いていた。そして左の鮎川先輩は不在のままだが、右の結奈もまた、こつぜんと姿を消していた。
多くの生徒が集まり、絵の写真を撮っていた。ここまで不可解だとほんとうに怪奇現象じゃないかと疑ってしまう。
「あっ、おはよう。かつき君も来たんだ」
「みずほ先輩、やっぱりかぎつけたんですね」
みずほ先輩も見に来ていたようだ。肩を並べてふたりで絵を眺める。
「両手の花がいなくなっちまいましたね」
「そうだけど……なんかちょっと変よね」
「どこがですか」
「今回は色がくすんでいるし、塗り方が荒く見えるわ」
「そうっすか、俺にはあんまり区別つかないですけど」
近づいて目を凝らす。たしかにみずほ先輩の言う通り、いままでの描き換えとは雰囲気が違うと感じる。
毎回、この場所で描き換えをしているのだから、美術部の生徒の仕業という可能性が濃厚だ。
ふと、結奈のことを思い出した。
「もしかすると、結奈が事情を知ってるかもしれないっすね」
「聞いてみようか。学校が終わったら声をかけてもらえるかな」
「了解っす!」
俺は放課後、すぐさま結奈のクラスへと向かい下校を待った。
ところが結奈は俺の顔を見るやいなや避けて通り過ぎようとした。
「ちょっと待てよ!」
結奈の腕をつかんだ。振り向いた結奈は泣きそうな顔で俺を睨みつける。天真爛漫な彼女らしくない表情に俺は驚いた。
「どうしたんだよ、何があったんだよ」
気を遣い声を鎮めて尋ねるが、彼女は押し黙ったままだ。
そのとき俺のスマホが鳴る。見るとみずほ先輩からだ。
電話を受けると、意外なひとことが耳に飛び込んできた。
「絵を描き換えたひとが生徒会室に来たの!」
「えっ?」
「そのひとが結奈ちゃんを呼んで、って言ってるのよ!」
「どういうことっすか」
「とにかく結奈ちゃんを連れてきて!」
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